『翼がなくても』



 天使の存在を、信じますか。真っ白な翼を持つ、あの天使。
あなたは、天使に出逢ったことはありませんか。
天使には、様々な言い伝えがありました。
願いを聞いているのは神様ではなく、実は天使なのだと。そして・・・。
天使という者は、全ての人々を平等に愛する者。
1人だけを愛することは、禁じられていて。
その掟を破った天使は、人間界へと堕落する。
そして、その時、天使は大切なもの全てを失うのだと。
自由に羽ばたいてるようで、実はとてもツライのだ、と・・・。

 その日は夕立だった。傘を差したまま、ぼんやりと歩いていた。
私は、。クリスマスも近いというのに、一緒に過ごす彼氏もいない。
せめて、ホワイトクリスマス・イヴになって欲しい。
1人ぼっちの私を、誰か癒して欲しい。
そんなことを考えてる時だった。
―ドンッ―
 誰かにぶつかられて、私は倒れた。水溜りの一歩手前で。
)「イテテテテ・・・。」
 足首を捻ったらしく、上手く立ち上がれない。
すると、目の前に手が差し出された。
?)「大丈夫?」
)「え? あ、はい・・・。」
 年は、16、7歳くらいの男の子。服は、全身真っ白。
?)「俺は。君は?」
)「・・・。」
 あまりにも、キレイな顔。私は、の足元を見て、驚いた。
水溜りの中に足があるのに。水は揺れていない・・・。
不思議そうな顔をしている私を見て、は微笑んだ。
)「俺のこと、普通じゃないと思ってるでしょ。」
)「うん・・・。」
)「ははっ。そりゃぁそうだよね。」
 は、いたずらっ子みたいな笑顔を見せる。
)「これ、何だか解る?」
 そう言うと、は私に背中を向けた。いや、背中は見えなかった。
見えたもの。私の視界に飛び込んできたのは、真っ白な翼。
)「どーゆう・・・こと?」
)「俺、天使なの。」
 こんな爆弾発言をしたというのに、周りの人々は通り過ぎていくばかり。
誰も、気にしないのだろうか? 街の真ん中にいる、この天使を。
)「心に寂しさを持つ、君だけのために来た。」
)「私だけ?」
)「以外、誰も俺のことが見えないんだ。」
 は、私の足首に手を当てた。一瞬足元が光り、痛みが消えた。
)「俺もう行かなくちゃ。またね、。」
)「あ・・・・・。」
 そう言い残して、は空高く舞い上がっていった。
白く、力強い翼を羽ばたかせながら。
―翌日―
)「クリスマスまで、あと1週間・・・。」
 昨日は、のことばかり思い出して、眠れなかった。
まるで、心を奪われたように。忘れられない。
好きになってしまった。あの優しさを、好きになってしまった。
)「やっほ〜☆」
)「わッ!!」
)「どーしちゃったの? 目が真っ赤。」
)「あー・・・ちょっと昨夜、眠れなくて。」
)「ねぇ、もうすぐクリスマスでしょ。」
)「うん。」 )「は彼氏いないでしょ。癒して欲しくて、寂しいんでしょ?」
)「(私の心を見透かしてる・・・)」
)「だから、俺が1つだけ、願いを叶えてあげる。」
)「願いを・・・?」
)「うん。何がいい?」
)「・・・・・ホワイトクリスマス・イヴになって欲しい。」
)「あ、雪? オッケー♪」
 バカ。本当は、もっと大切な願い事があるくせに。
に、彼氏になって欲しい。』
けど、言い伝えを思い出すと。1人だけを愛することは、許されていない。
きっと、こんなお願いしたら、を困らせる。
だからせめて・・・ホワイトクリスマスを・・・。
―街―
 人込み。クリスマス前になると、カップルが増える。
幸せそうに寄り添う恋人達を見かけると、を思い出す。
あーやって、一緒に並んで歩けたら、どんなにいいだろう。
私は、何で天使に恋をしてしまったんだろう?
)「・・・。」
 癒されたかった。確かに、そうだった。けど、今は違う。
切なさや痛さは、誤魔化せない。
たった1人。に、癒してもらいたかった。
愛されることによって、自分の居場所を見つけられるような気がした。
1人を愛することを許されない、天使に愛されたなら・・・。
)「この想いは、届かないんだよね・・・。住む世界が違うから・・・。」
 今まで、恋は何度か経験してきたよ。でも、こんな苦しさは感じたことがない。
―クリスマスイヴ前夜―
)「明日はいよいよイヴだね。」
)「うん・・・。」
 私は、ホワイトクリスマス・イヴをお願いした。
天使は、願いを叶えると、空に帰ってしまうのだろうか?
なら、に会えるのは、今日までなの?
満天の空を見上げて、私は泣きそうになっていた。
)「あのさ。明日の約束・・・。」
)「明日?」
)「何でもない。雪、降るといいな。」
)「が降らせてくれるんでしょー?(笑)」
)「まぁね・・・。」  は、思いつめた表情を見せた。どーゆう意味?
―クリスマスイヴ―
 待ち合わせした場所に、は少し遅れてきた。
)「・・・。」
)「どーしたの? 息切らして・・・。」
)「うん・・・。」
)「・・早く、雪が降らないかなー♪(^^)」
)「、ごめん。」
)「え?」
 は、私を思いっきり抱きしめた。突然のことに、私はどうしていいか解らない。
)「?」
)「俺、のことが好きだ。許されることじゃないけど、気持ちは変えられない。」
)「い、今・・・」
)「やっと言えたよ・・・。ずっと前から、好きだったんだ、のこと。
    天界にいる時から、ずっと・・・。ごめん。雪は、無理かも知れないや。」
 ちょっと苦笑いしたは、少し力を弱めた。
の体は、次第に薄くなっていった。
)「・・・? どーして・・・どーして?!」
)「掟を破った天使は、堕落するしかない。行く先は、人間界だとは限らないけど。
奇跡が起きれば、人間界に着くかも知れない。」
)「そんなの解ってる! どうして自分を・・・。天使じゃなくなっちゃうんだよ?」
)「に想いを伝えられないより、マシだから。」
)「イヤ・・・イヤだよ・・・!! 消えないでよぉ!!」
)「奇跡が起こらなくても。は1人じゃないから。」
)「がいなきゃ・・・私、また1人になっちゃうよ!!」
)「は、大丈夫だよ・・・。」
 そう言った瞬間、は消えた。手で探っても、何もない。
)「ッ・・・!」
 もう、会えないんだ。涙が溢れてきたよ・・・。こんな愛しさ、初めて知ったよ。
こんなに人を愛したことは、無かったのに。だけは特別だった・・・。
そして、その夜。雪は、降らなかった。
―翌日 クリスマス―
 恋人達は、とても幸せそうに並んで歩いているのに。
こんな幸せな日に、涙を流しているのは私だけなのかも知れない。
大切な人を、失ってしまった。もう一度だけでいい。会いたい・・・。
上を見上げると、星が降ってきそうな、キレイな星空があった。
すごくキレイな星。涙が止まらなくなる。
)「・・・会いたいよ・・・。」
?)「・・?」
―バッ―
 聞き覚えのある声。振り返った私は、信じられない光景を目にした。
)「?」
)「俺・・・人間になれたみたい。」
)「あ・・・。」
 そう言えば、普通の服を着てる。背中に、真っ白な翼はない。
)「いわゆる、堕天使ってやつ? 天使の力は無くしたけど。
    1番大切なものだけは無くさなかった。」
 の瞳は、真っ直ぐだった。
)「掟を破ってでも、ずっとの側にいたかった。」
)「ごめんね・・・ごめん・・・。私のせい・・・」
)「俺はずっと人間になりたかったんだ。天使より、ずっと自由だから。」
)「これからは、ずっと一緒にいられる?」
)「うん。のこと、1人にしたりしない。」
 また、涙が出そうになった。悲しいんじゃない。
嬉しくて。とまた会えたことが。すごく、嬉しくて。
)「あ・・・!」
)「え? ・・・あぁ。」
 雪。満天の星空は、いつの間にか無くなっていた。
少し曇った空からは、真っ白な雪が降ってきた。
)「ホワイトクリスマスだぁ・・・。」
)「奇跡って、本当に起きるもんなんだな。」
)「翼がなくても、は私の天使のままだよ・・・。」
 の唇が、私の唇に触れた。
)「・・・メリー・ホワイトクリスマス♪」
 翼がなくても。奇跡が起こらなくても。
1人じゃないから。側にいてくれる人がいるから。
今年のクリスマス、最高の思い出になったよ。
来年も、その次のクリスマスも。と過ごしたいな。

翼を持っている者だけが、天使だというわけではない。
きっと、人間の姿をした天使は、たくさんいて。
ふと天使に見えた人がいたのなら。それは天使の心を持った人。
そう、例えばみたいな人。
私の天使は、これからもずっと、でいて欲しい。
天使の存在を、信じる。これからも、ずっと。
いつだって、天使は見守ってくれているのだから・・・。






<<あとがき>> ←小窓が開きます