「ヤツらの季節」 2000年 夏


 私は夏が好きではない。暑いのが苦手なのもあるのだが、それ以上にヤツらが大嫌いなのだ。
 そう、ヤツら―。黒くて光っててすばしこいヤツ。たまに飛ぶ。口にするのもイヤなくらいだ。
 CFなどでヤツらが登場したりすると、一人で激怒している。特に食事中などにそのCFをくらうときついものがある。
 そのようなCFの時は、「画面にヤツらが出そうな気配」を察したら目を背けるようにしている。たまにそのシーンの終わり時を間違え、直視してしまうこともままある。しかし、その対処法はそこそこの効果をあげている。
 なぜ私がこれほどまでにヤツらを嫌うのか、自分自身でもよくわからない。昔は虫の類は全然平気だったのに、中学くらいから全くダメになってしまったのだ。
 私とヤツとの戦いのエピソードは数知れない。

 高校生の時、友達と二人でインド料理屋へ行ったことがあった。昼飯時に、たまたま駅前のしゃれたインド料理屋が目に入ったので入ってみることにしたのだ。
 インド料理屋に入ると、昼食時だというのに客が一人も見あたらなかった。いるのは外国人のコックとウェイトレスだけであった。なんだか少し怪しい気もしたが、「空いてるにこしたことはない」ということになった。
 私たちは、カレーだかなんだかを日本語のほとんどできないウェイトレスに注文した。
 そしてカレーが運ばれてきて、私たちは楽しく食事をした。テーブルの上には珍しい調味料などがあって、いろいろ試せて面白かった。
 私はふと自分の左手のそばにある壁に目をやった。「っ!!」。ヤツが壁を這っているではないか。私の様に大嫌いな人ほどヤツらを見つけやすいものだ。
 「ゴキブリ屋敷」。そんな言葉が脳裏に浮かんだ。
 私はパニックになり、情けない声で友人に助けを求めた。すると彼は果敢にも(仕方なく)、テーブルにあったナプキンでヤツをしとめた。彼の勇気に金一封というカンジである。
 私たちは、しとめたヤツの死骸を何処にやるか困り、ウェイトレスに一部始終をがんばって伝えた。
 彼女は食事を運ぶトレーに死骸をのせ、「change?」と聞いてきた。が、今更席を変えたところでどうなるわけではないので断った。
 その後も食事は続いたが、私はテーブルの上の珍しい調味料を使わない方が良かったと後悔した。
 ちなみにその店は、数ヶ月後になくなっていた。

 高校を卒業するくらいまでは、ヤツの事を見たり聞いたりするとその夜に必ずヤツの夢を見たものだ。
 夏の夜、お化けも怖いが、ヤツらの方のが数十倍怖い。

 私とヤツとの戦いは、まだ続く…。
 また、今夜夢に出ない事を祈る。


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