秋の夜長に


こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。
イタリアも、一気に寒くなりました。11月です。そしてヴェネツィアの11月といえば・・・、今日もアックア・アルタです。満潮が8時45分で、予測が132cm、というわけで午前9時現在、私の家の前も水に浸かっています。11時半ごろに出かけるまでに引いてくれることを祈りつつ。

2004年11月6日

金曜日の深夜過ぎ、翌朝出すつもりのごみなどをアパートの下まで運んで、ちょっとそこにあったものなどを整理していたところ、上に電気のメーターなどがおさまった箱があるのに気付かずに頭を強打しました。余りの痛さに、両手で頭をかかえて声も出せずにしばらくいたのですが、ふと気がつくと、その両手がぐっしょり濡れているようなのです。汗?と思って手を目の前に持って来てみると、なんと血まみれ。びっくりして、家に駆け上がって、洗面所で鏡を見ると、首は真っ赤、顔にも一筋、二筋、血がしたたり、まるでホラー映画です。
なにしろ、おっちょこちょいなのか、足元がおぼつかないのか、よくあちこちで転ぶし、何かにぶつかってあざをつくることはしょっちゅうなのですが、大病も、大怪我もしたことがなく、自分の体から、こんなに血が出ているのを見るのは初めてです。かつ、そのあまりにも薄くて、鮮やかな血の色にもびっくり、映画でこんな色の血を使っていたら、絶対にうそ臭い、というような色。さすがに頭の血は手や足と違って、多少繊細なのでしょうか。あちこち触って血まみれにしてしまったところを拭いているうちに、どうやら出血は止まり、なにしろびっくりしました。
虫の知らせ、というのがあるのでしょうか。ここのところ、祖母の調子が悪くて、ほぼ毎週、週末に実家に電話をしていました。翌朝、私の方はと言えばもう痛みもなければ、傷跡もよくわからないくらいになっていたのですが、一応報告がてら電話して、祖母の様子も聞いてみようと思ったら、母が慌てて出てきて、その日の未明にとうとう亡くなっていたのでした。不思議なことに、ちょうど私が頭をぶつけていたのと同じ時間、いや、正確に言うと8時間の時差があるので8時間後ですが、時計の針が同じ時間を指す頃のできごとでした。偶然といえば偶然。それでも、虫の知らせなら、もう少し穏やかな方法でもよかったのに。その土曜日の朝は、激しい雨となりました。
好きで外国にいる以上、もちろんこういうことも覚悟していましたが、今ここでは何もできないし、といって、家にいたところで何も手につきません。ちょうどお昼ごろ雨も止んだので、人に会いに行ったり、出かけたりしていました。

日曜日の夜です。早めに寝床について、ふと、また祖母のことを考えていたら、自然と涙がほおを伝っていました。そうやって、数分経ったでしょうか。はじめは、気のせいかとも思ったのですが、なんとなく、いや確かに、外から鐘の音が聞えてくるのです。
イタリアでは、まだまだ時を告げる教会の鐘楼が生きています。教会によって、町によって、毎時の、その数だけの鐘のほか、毎時30分とか、あるいは15分刻みにも一つ二つ鳴るとか、いろいろ違うのですが、慣れると時計よりもあてにしてしまうくらいです。夜中も同じように鳴らすところもあるようですが、たいていは夜の10時ごろまで。私の家の近所の教会も、その後は朝7時まではお休みです。お天気や風向きによって、町の中心にある聖マルコ広場の、深夜ちょうどの鐘が聞こえることもありますが、この晩は、そういえばちょうどそれを聞いてから蒲団にもぐりこんだはず。
おかしいな、と思って時計を見ると、0時20分過ぎ。窓を開けると、音が案外近くて、おそらく一番近くのいつもの鐘、それがゴーン、ゴーン、と途切れることなく鳴り続けているのです。ひょっとして、火事や何か、非常事態かもしれないと思い、玄関から出てみても、外はひっそりと穏やかに闇が広がり、その鐘だけが、何か夢の中の出来事のように鳴り続けているのです。止むまではなんとも不安で寝床に戻る気もせず、ぼんやりとしていたのですが、そうやって、半時間ほど鳴り続けた後、また何事もなかったかのように静寂に戻ったのでした。
あれは何だったのか、翌日になっても結局わからなかったのですが、その時間からして、ひょっとして天のいたずら、祖母のために鳴ってくれていたのかも、と思えてきたのでした。
ではまた。
Fumie