| こんにちは、いかがお過ごしでしょうか。 近所のクリスマス・マーケットが開いて、遅れ馳せながらようやくヴェネツィアもクリスマス・ムードになってきました。
ミラノの挑戦、ヴェネツィアの迷い
本日12月7日、伝統にしたがって守護聖人、聖アンブロージョの日に、ミラノ・スカラ座が開幕となります。改築工事をしていたスカラ座、2年ぶりの本劇場です。スカラ座は、この改築にあたり、現在、美術館建築などでも名の高い、スイス人建築家マリオ・ボッタ氏に依頼。歴史的建築物でもあるこの劇場の、正面は基本的に元の姿を残すものの、背後と、向かって左側奥に、外からも明らかにそれとわかる全く新しい建築物を加えるという方針をとりました。正面からはあまりわからなかったものの、背後は実は、第2次世界大戦時に爆撃を受けた後の修復のほか、その時代の流れの中で、劇そのものの演出の需要に従い、少しずつ、ブロックを組み立てるようにごちゃごちゃと増改築されていたのでした。
町の中心地の、歴史的外観保存地区、しかもそれ自体が200年を超える歴史を背負うスカラ座は、その増改築そのものも歴史の一部であることは間違いありません。それを取り払う、思いきった案に対してはずいぶん議論が、いや、反対があったと聞きます。
先日、ボッタ氏の講演を聞く機会があったのですが、「新しいスカラ座は、6年ではなくて、6カ月以内には必ずや、ミラノの風景としてすっかり馴染んだものになると確信している」と言いきっていたのが、印象的でした。
週末にたまたまミラノへ行ったので、外観だけ見学をしてきましたが、確かに、既に写真などで新しい建物を見慣れていたせいか、ほとんど違和感なく、すっぽりとおさまっているように見えました。各種報道によると、客席などの内部の装飾についてはあくまでもオリジナルを再現することを目指し、舞台裏など機能面については最先端の技術を取り入れ、特により大きな舞台装置の導入が可能になったのだとか。どれどれ、ぜひ一度は行ってみたいと思わせる、その宣伝効果もさすがといえます。
一方、以前お伝えしたように、ヴェネツィアのフェニーチェ劇場は、昨年華やかにオープニング・セレモニーを行ったのですが、オペラ公演は、この11月ようやく開幕となりました。たとえ焼け落ちても、歴史的建造物として元通り再建するのか、あるいは思いきって新しい建物を作るのか。ヴェネツィアでも、やはり再建計画当初は議論になったものの、結局のところ「元の通りに」というところに落ち着きました。残念ながら私自身は火事で焼失する前のフェニーチェには入ったことはないのですが、なるほど、こうであったのだろう、というように、内装は「かつての」スタイルで仕上げられています。こういうことに関して、基本的には保守的、なるべくは「オリジナルを保存」を指示する私も、しかし、21世紀に急ごしらえで作りなおされたヴェネツィア・ロココ調は、いかにも張りぼてな、かえって安っぽいような感じもして、正直のところ、もう少しなんとかならなかったのか・・・と思ったりもしました。赤いビロード張りや、金メッキの彫刻、そういった装飾がオペラの非日常感を盛りたてることはわかっているし、決して嫌いではないけれど、一方で、建築の専門大学まで持つヴェネツィアで、そういう要素を生かし、かつ伝統を尊重し、それでいて21世紀のオペラ・ハウスを、なぜ作れなかったのだろう、と。
ところが。客席の照明がすうっと引く瞬間、ちらつく光の残る闇に、ビロードの色、つや消しの金塗りが溶けこんでいく空気の調和は見事で、はっと息をのむほど美しいものでした。ヴェネツィアは、やはりこれでよかったのだ、と納得したのでした。
その記念すべき、開幕演目は、椿姫。しかし、当時は結局のところ実現しなかったものの作曲家ヴェルディが、本来は「現代風の演出」を強く望んでいたというのを尊重し、「現代風」。左奥には、確かにどこにでもあるような洗面台を備えた洗面所が見えており、舞台の中央には、派手なグリーンの、キングサイズのベッド。その上にいきなり主役のヴィオレッタが黒下着姿で横たわっていたのです。ヴェルディが望んだのは、1853年作曲当時の「現代」であって、20世紀末風ではないと思うのですが・・・。よりによって記念すべきオープニングで、額縁と、舞台が反転しているような、演出と劇場が矛盾しているような、妙な気分にとらわれました。
強いていえば、あの演出は、案外、現代風のすっきりした劇場なら、むしろなかなかいいのかもしれません。この椿姫は、来年日本公演もあるようです。もしご覧になるようなら、ぜひご感想をお聞かせいただければ、と思います。
長くなりました。では、また。
Fumie
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