| 新しいタイプの、面白い試みの展覧会と言えよう。 風景、特に自然の風景を愛でる習慣、趣味というのは、人間の長い歴史の中で常に存在したわけではない。ヨーロッパでは少なくとも、中世とよばれる5世紀から約1000年にわたる時代には、自然、野生は、あくまでも征服の対象、あるいは人間の住む町に対し、野獣や悪魔の宿るところ、否定的な意味における「別世界」であった。
12世紀に、森の中で迷い、野獣に出会う「神曲」のダンテに対し、自然の美しさを「発見」し、自ら町を出て自然の中に身をおいてその美しさを歌い上げたのが、ペトラルカ。それはまた、古代ローマに対する彼の強い憧れ、研究の成果でもあった。町を離れ、郊外に競って豪華なお屋敷を建てるのが、古代ローマ人貴族だったので。
ルネサンスと呼ばれる時代、古代文化の再評価と共に、自然に向き合う美しいヴィッラを建てる、そんな文化が花開く。はじめは、フィレンツェ。そしてヴェネツィア、が、しかし、ヴェネツィアでは、別の形で大きく発展を遂げる。元々、海運・貿易商人だったヴェネツィア貴族たちは、15世紀終盤のアメリカ大陸発見など、欧州世界をとりまく大きな変化に伴い、その基盤を徐々に失っていく。海上の都市国家としての起源を持つヴェネツィアが、内陸に目を向ける。共和国として、この時代もっともその勢力範囲を広げたのも偶然ではない。そして、貴族たちが目をつけたのは農業だった。現ヴェネト地方平野部に、この時代次々と建てられたヴィッラは、単なる貴族の、趣味の別荘ではない。一流の建築家、画家、彫刻家に仕事をさせたそれは、もちろん一級の芸術作品であるが、それはまた、農地の管理、あるいは銀行業務と、実務を伴う彼等の住居兼オフィスでもあった。
この展覧会では、そんな、ヴィッラの歴史を紹介する。まず、ローマ時代の、「ヴィッラの模型」。子供の彫刻のような石の塊だが、このヴィチェンツァで生まれ、ヴェネツィアはもちろん広くヴェネトで活躍した建築家パッラーディオが、その着想を得た形だと言われれば確かにそう見える。他に、そのパッラーディオ、後継者たるスカモッツィ、あるいはフィレンツェ、ローマで建築家として活躍した、ラファエッロ、サンガッロ等々の、設計図、デッサン、あるいは、当時の理論書。実際の、主なヴィッラの精巧な模型。ティッツィアーノをはじめとする、ヴィッラの姿が背景に描きこまれている一連の絵画。
ペトラルカが晩年住んだという、アルクアという小さな町の彼の家から、ヴェネツィアの誇る20世紀の大建築家カルロ・スカルパまで、約7世紀にわたるヴィッラの歴史を多角的に見せるこの展覧会は、強いていえば、いろいろなものが少しずつごちゃごちゃありすぎて、各項目の深みが足りないとも言えるが、それでも、全体の流れはよくできていて、さらっと楽しむには十分よくできていると思う。
もちろん、これだけ模型だの図面だの見たら、実物を見たくなるものだが、この展覧会のチケットで、10以上の主なヴィッラの入場が無料になる。ただし、チケットは1日、3日、7日と期限により価格が変わるので、要注意。
展覧会場内は、伊・英のバイリンガルだったが、最近にしてはずいぶん立派なパンフレットは、なんと4カ国語。このパンフレットの豪華さといい、主催者側の意気込みがうかがえる。
もう1つ、こうした由来のヴィッラは、どこも郊外に建てられていて、今でも公共の交通機関でたどり着けないところがほとんど。車を自ら運転しない場合、アクセスがかなり困難なのが難点だ。せめて、チケットに含まれているヴィッラを巡回する、有料でもいいから送迎バスのようなものを用意したらいいのに、と思うが、そうはいかないのが、つくづく残念である。いずれにしても、ヴェネト平野全体、かなり広範囲に散らばっており、1日はもとより、3日でも半分も見るのは大変だと思われる。よほどマニアでない限り、行けそうなところ、興味のあるところにぽつぽつと行ってみる位がちょうどいいのかもしれない。マニアとはいかなくても、小学生の自由研究から大学の卒論まで、その気になればたくさん面白いテーマが見つかるだろう。
会期は7月まで。車さえ何とかなれば、風景を楽しみながらのドライブ、着いた先でのヴィッラでの庭散策には絶好の季節でもある。
そのチケット以外にも、重要なヴィッラはいくつもある。この春・夏は、時間をみつけて少しずつ回ってみたいと思う。(2005年3月30日)
Fumie
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