
| ●シナリオの概略 |
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宮崎県の北東部に位置する寒村『朱河村(あかねがわむら)』では、戦国時代の後期に超常的存在<イモータル>が出現し人々を襲うという出来事がありました。実体を持たない<イモータル>に対して効果的な撃退の手段を持たない村人達は、これに対抗するため霊能力に秀でた巫女を呼び寄せました。<イモータル>が太陽や炎などの明かりを源にして力を振るうことを察した巫女は、完全に明かりの遮断された石室を村人達に作らせ、そこに<イモータル>を封印しようと試みます。ただ、実体の無い<イモータル>を物理的に閉じこめることは不可能でしたので、巫女はその身に<イモータル>を宿らせ自ら石室の中へと閉じこもることで、<イモータル>を封印しました。 こうして脅威が去った村人達はあることに気がつきます。それは<イモータル>が残した赤い液体───エーテル体を変換された犠牲者達の残滓───が農作物の肥料として驚くべき効果を発揮することです。この事実は村人達にある誘惑を促しました。それは<イモータル>を村の豊穣神として崇め奉り、定期的に生贄を送ることで貧弱な土地を豊かなものにしようというものでした。村人達は祭祀を務めるものとして巫女の親族であった宮乃家に宮司をまかせ、時が明治に入るまで<イモータル>を『緋目様(ひめさま)』として祀りました。 『緋目様』を宿す巫女は50年ほどに一度代替わりをしました。たとえ<イモータル>といえど力の源たる光が無い状態では憑依する肉体も不滅のものではありませんでした。『緋目様』と一体化している巫女の肉体が滅びれば、<イモータル>は元の世界へと帰還してしまうのです。『緋目様』の社とその周辺を『神域』と呼んでいたので、そこに送られる巫女は『神域の巫女』と名が付きました。『神域の巫女』は代々宮乃家から排出され、俗世間との関わりを無くすために宮乃家の裏手にある岩座敷で育てられます。これは『緋目様』が憑依する巫女の感情に敏感に反応するためです(<イモータル>自体には明確なる意志は存在しません───人類の卑小なる視点から見れば、ですが───ので、基本的には近くにいる捕食物=生命体から精神力を奪うこと以外の行動は取りません。意図的に集落を襲うことなどはないのです)。 時代は移り明治のはじめ、政府は廃仏毀釈令を出し国家神道の統一を図りました。緋目様の祭祀を継いでいた宮乃厳男はこれを機に宮司を廃し、緋目様の祭祀を捨て去ることを決めます。村人達はこれに反対しませんでした。近代化の波と時の流れにより緋目様の存在は薄らいでいたのです。このまま先代の巫女の身体は朽ち果て、<イモータル>は自らの世界へと帰還するはずでした。ですが昭和初期に入り事態は一変します。折からの世界恐慌に続いて東北各地は大飢饉に見舞われたのです。その影響は朱河村も例外ではありませんでした。このとき事業に失敗して帰郷していた牧村磐之介は厳男に祭祀の再開を迫ります。磐之介は幼いときに巫女の代替わりと生贄の儀式(この時は家畜が使用されました)を目の当たりにしており、緋目様の御力を現実のものとして認識していたのです。しかしながら祭祀の実状(巫女を人身御供として捧げること)を知っている厳男はこれに頑なに反対し、勢い余った磐之介は厳男夫婦を殺害してしまいます。後には引けない磐之介は宮乃家から『朱河村祭祀詞』を持ち出し、緋目様の祭祀について断片的ながらも知識を身につけ、巫女の代替わりが必要であることを知りました。そこで彼は上京している厳男夫婦の娘、香奈子を両親が失踪したと朱河村に呼び寄せ、彼女を新たなる巫女に仕立て上げようと画策します。 帰郷した宮乃香奈子を両親に会わせると偽って神域に連れてきた磐之介等は、両親に会わせる交換条件として巫女の代替わりを強要します。緋目様については知識に乏しい香奈子は両親に会えるならばとこれを行い…、新しい巫女、新しい『緋目様』と化してしまいます。ですが、ここで手違いが起こります。緋目様の祭祀について懐疑的であった秘書の滝田と矢島が不注意にも封印の石室に明かりとなる懐中電灯を持ち込んでしまいました。光源によって力を振るう緋目様は活性化し、下男の満沼が緋の瞳の前に消え去ります。そしてこれに混乱した磐之介等によって二人は社に閉じこめられ…、どちらも消え去りました。 犠牲は伴いましたが、緋目様の祭祀は完成され翌日から農作物は驚くほどの成長を見せました。香奈子のことを気に止めている村人達はほとんどいません…。磐之介の息子、牧村伸彦以外は…。伸彦は香奈子とは幼なじみで、同じ境遇である二人はまるで本物の姉弟であるかのように仲良しでした。伸彦は父親の行動を不審に思い、香奈子の身に何かあったのではないかと不安を募らせています。 そしてもう一人。香奈子とは女学校時代からの友人であるPC1の元に香奈子からの手紙が届きます。その手紙によって朱河村へと誘われるゴーストハンター達は、これから起こる惨劇と狂気の時を未だ知りません。 |
| ●NPC紹介 |
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宮乃香奈子(みやの かなこ) 19歳 女性 宮乃家の一人娘 朱河村で緋目様の祭祀を努めていた宮乃家の一人娘。廃仏毀釈令により緋目様の宮司が廃され、巫女として神域に送られるはずだった香奈子は普通の少女として暮らすことができるはずでした。それまで神域の巫女として村では腫れ物のように扱われていた香奈子のために、父親の厳男(いつお)は香奈子を東京の女学校へと通わせ、そこでPC1と知りあうことになります。 厳男夫婦は一人娘にありったけの愛情を注ぎ(本来でしたら神域に赴く運命でしたので、我が子の将来を悲観した反動もあります)、香奈子も非常に両親思いになりました。それは幾つかのエピソードがあります。一つは父親が苦しい懐から捻出して買い与えた愛用のバイオリン。彼女はこのバイオリンでドボルザーク作交響曲第九番ホ短調「新世界より」第四楽章を引くのが得意でした。 シナリオ中では既に『緋の瞳の女神』の寄り代として自我を失っています。神域から解放された『女神』は香奈子が抱いていた強い思い(=両親との再会)に影響され、盲目的に村中を探し回ることになります。 牧村伸彦(まきむら のぶひこ) 17歳 男性 牧村家次男 珠恵の双子の弟 朱河村の地主牧村家の次男で珠恵の双子の弟です。線の細い美少年で珠恵とそっくりな顔立ちをしています。年齢的にも近い香奈子とは幼なじみです。体の弱い伸彦は村の子供達に馴染めず、同じように神域の巫女として疎まれていた香奈子と親しくなります。 香奈子の失踪に関して父に強い疑念を抱いた伸彦は、巫女の風貌をして出歩くことで不安を煽ることで、父が香奈子の所在を確認するように仕向けます。そして、山狩りの際に石倉から解放された『女神』を見た彼は狂気に陥り、『女神』の行いを香奈子の怨念と勘違いして、村人達の殺害を策略します。 牧村磐之介(まきむら いわのすけ)52歳 男性 牧村家当主 朱河村の地主牧村家の当主。権威主義の業突張り。仙台で綿工場を開いていたが昨今の恐慌で事業は倒産、故郷へ出戻りしました。幼い頃に緋目様の儀式を目の当たりにしたことがあり、飢饉を理由に宮乃家に儀式の復活を望むが断られた為、宮乃夫妻を殺害します。その後、帰郷した香奈子を両親に会わすという交換条件に巫女として神域に送ります。その際不手際で緋目様が解放されかけ、パニック状態の中で秘書の滝田と矢島、下働きの満沼を石室に閉じこめてしまいました。 家族に関心が無く、妻の久江が病死したときに家に帰らなかったことから子供達からも軽蔑されている。唯一母親のスエだけには頭が上がらない。 牧村伸介(まきむら のぶすけ) 22歳 男性 牧村家長男 牧村家の長男です。お人好しの小心者で軽薄そうな笑みを絶やすことがありません。勤勉家で農薬について独学で学び、村人達に指導などしています。趣味は意外にもクラシック音楽を聴くことで蓄音機やレコードを集めており、兄弟思いの彼は伸彦に頼まれ「新世界より」のレコードを貸しています。 父親が綿工場を経営していた時には伸介は東北大の農学部に通っていましたが、工場の倒産により授業料が払えなくなり中退し、村に戻ってきてからは村人達に専門的な農業を教授しています。農薬や殺虫剤の使用を奨めたのも伸介です。 牧村珠恵(まきむら たまえ) 17歳 女性 牧村家長女 伸彦の双子の姉 牧村家の長女で伸彦の双子の姉です。気性の荒い高飛車な性格をしています。父の秘書滝田と秘密裏に交際中であり、滝田が失踪してから(滝田が『女神』を解放したため、混乱した磐之介等に石室に閉じこめられた)情緒不安定になっており、誰彼かまわず当たり散らしています。 牧村家に立て籠もった際、発狂した伸彦に殺害されて入れ替わられます。 室田京介(むろた きょうすけ) 32歳 男性 心霊科学者 キャストレベル:4 体力:6 敏捷:2 分析:9 知覚:10 意志力:9 魅力:6 運:8 HP:34 MP:46 抵抗力:65% 技能 心霊機械:5(70)機械操作:5(70)鑑定:2(60)医療手当:2(55)資料検索:1(50) 回避:4(30)科学:3(60)機械修理:3(60)自動車:1(50)電気修理:1(50)薬学:1(50)聞き耳:2(60) 武器:拡散怪光線2(70% 1D6体 1D6+2+5) 生体磁力放射線3(70% 1D10+5) 所持品:個人用バリアー(防御点10)赤外線視覚 治癒 ダウジング 自動車 わざわざ朱河村にやって来て研究をしている心霊科学者です。濃い系の美男子だが不敵且つ間の抜けている性格が全てをぶち壊しています。朱河村を流れる大川の川辺には「心霊機材」サイコンデンサの材料となる希少金属が採取できることを知った室田は(これには『緋の瞳の女神』と何らかの関連があるのかもしれない)、これを独り占めするためにここに移り住んでいるのです(しかしながら口の軽い彼がPCに自慢するのは時間の問題であろう)。 室田はPCの協力者として積極的に絡ませることができる便利なNPCです。シナリオ全般でムードメーカーとして使用してください。シナリオの途中でPCの誰かが死亡してしまった場合は、室田をPCとして参加させてください。 |
| ●事件の経過 |
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・9月下旬 牧村磐之介が宮乃厳男に緋目様の祭祀復活を要請するが断られる。逆上した磐之介は厳男夫婦を殺害、死体は岩座敷に隠蔽する。 ・10月上旬 緋目様の祭祀には新たなる巫女が必要と知った磐之介は上京していた宮乃香奈子に両親の失踪を伝え朱河村に呼び出す。香奈子帰郷。 PC到着の1〜2日前 (PC達の到着に合わせて調整する)PC1の元に香奈子から手紙が届く。 ・PC到着の前日 巫女の代替わりを行うため、香奈子に両親に会わせると騙して神域の社に連れていく。巫女の代替わりが終了した直後、滝田が懐中電灯をつけたことにより「女神」の<緋の瞳の洗礼>が発動。満沼を消滅させる。狂乱状態となった磐之介と高山は石室内に滝田と矢島がいるにも関わらず扉を閉めて逃げ帰る。 ・PCが朱河村に到着 ・夜中 伸彦が巫女姿で磐之介達を驚かす。逃走する伸彦をPC達が目撃。 ・翌日7時 村人達が村の広場に集まり、山狩りの準備をする。8時開始。 ・使用人の猪岡と水島が神域の社を開く。水島消滅。猪岡逃走。森の中で狂乱した猪岡と出会う。 ・神域の社で香奈子に憑依した「女神」と遭遇。伸彦は「女神」が猪岡を消滅する光景を目撃し、発狂。村の潰滅を画策する。 ・昼頃 「女神」が村の広場を襲う。生き残りは牧村家に立て籠もる。村の下手の村人達の避難。峡谷沿いの道の爆破で脱出路が絶たれる。伸彦牧村家に侵入。 ・夕刻 磐之介帰宅、直後に殺害。高山倉の中に立て籠もる。「女神」の襲撃。高山殺害。 ・日没 犯人追求。再度の女神襲撃。エンディングへ。 |
| ●朱河村へ | ||
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.1. 導入 このシナリオでは宮乃香奈子の女学校時代の先輩であるPCが必要となります。ゲームを始める前にPLに協力してもらい、宮乃香奈子の先輩となるPC(二十歳頃の女性、女学校卒、管弦楽部)を決めて下さい。このPCを以降「PC1」と称します。PC達の中に該当する人物がいないようでしたら、各々のGMは『ハンドアウト1』の文面や香奈子との設定を変更してください。例を挙げるなら男性PCの婚約者や、同じ管弦楽団に所属する音楽家などが良いでしょう。 PC1の元に旧友宮乃香奈子からの封書が届く所からゲームははじまります。
手紙にはPCの人数分の汽車賃が同封されています。
恐らくPC達は、宮乃香奈子という人物についてのPCとしての知識をGMに尋ねてくることでしょう。宮乃香奈子はPC1の女学校での後輩にあたります。二人は当時珍しい管弦楽部に所属していて、外国人講師が自費で購入してきた楽譜を眺めながらヴァイオリンの演奏などをしていました。香奈子は音楽の素養があったので卒業後はヴァイオリニストとして東京の楽団に入ります。 性格的にはとかく生真面目で何事にも真剣に取り組むタイプです。また、両親思いであったことが印象に残っています。寮生活では毎週のように実家と手紙のやり取りをしていましたし、誕生日のお祝いとして農家の家系では高価であろうヴァイオリンをプレゼントされた時には、あまりの歓喜に涙することもありました。 ドボルザーク作交響曲第九番ホ短調「新世界より」は二人が演奏会でひいた想い出の曲です。香奈子は力強い雄大な終楽章である第四楽章を特に好んでいました。 ドボルザーク作交響曲第九番ホ短調「新世界より」はチェコの音楽家アントニン=ドヴォルザーク(1847〜1904)が、新天地アメリカで作曲した曲です。この曲は新しい世界に寄せた洋々たる希望と同時にドヴォルザークの故郷を偲ぶ気持ちとヒューマンな彼の人柄がそのまま反映された傑作曲です。 手紙を読んだ後PC1は<心理学>+30%に成功すると、香奈子が非常に思い詰めている様子であることが分かります。追伸で話題を無理に変えようとしていることから、無用な心配を避けようとしている彼女の心持ちが痛いほど分かります。 PC1は宮乃家がかつて村の祭事を司っていたことを聞いています。国家神道の統一を機に廃社したのですが、当時の風習から香奈子は村で生活することができなかったそうです。香奈子自身も幼い頃のことなのでよく分からないと前置きしながら、村の人は彼女を腫れ物でも扱うように接していたそうです。 PC達はこの時点でより情報を収集するため香奈子に連絡を取ろうとするかも知れません。しかし、朱河村には電話はありません。また、電報を送った場合は翌日郵便局から受取人不在の通知が帰ってきます。 PC達には朱河村へ向かうことが一番最良の策であることをそれとなくほのめかしてください。 .2.朱河村へ PC達は遅かれ早かれ朱河村へ向かうことになります。朱河村は宮城県北東部にあり、まず東京駅から東北本線で仙台にゆき、そこから5時間かけてバスを乗り継ぐ必要があります。朝早くに東京を出発しなければどこかに宿泊しなければなりません。 仙台からバスに乗ると、途中の古川市近郊の長閑なあぜ道の真ん中でエンジントラブルが発生し立ち往生してしまいます。<機械修理>に成功すると整備不良でエンジンが焼き付き、専門の施設や部品がないか限り当分直りそうに無いことが分かるでしょう。 暫し呆然としていると、一台の車が近づいてきます。車はPC達が4人までならT型フォード、それ以上なら三輪トラックです。車には眼鏡をした濃い系ハンサムの男性が乗っており、PC達の状況を哀れみつつ勿体ぶった様子で話しかけてきます。この男は室田です。室田はPC達が朱河村へ向かうと知るとオーバーアクション気味に幸運さを強調し、自分は朱河村に住んでいて今から向かうところだと言います。PC達が同乗を求めれば、彼は快く承諾することでしょう(結局、彼は話し相手がいなくて暇だったのです)。バスにはPC達しか乗客はおらず、運転手は保守のためにこの場を離れることができませんので、室田の車に乗るのはPC達だけです(当然運転手はPC達に、次の集落についたら本社の方に救援の連絡をしてくれと頼むことでしょう)。 シナリオ上日没後に到着した方が都合がいいので、仙台や他の場所に宿泊した場合は室田との出会いを遅らせて時間調整をしてください。 .2.1. 車上にて 朱河村に住む室田に、村の現状を質問しないPCはいないことでしょう。ここでは室田が知りうる情報を掲載します。とはいえ、室田は研究に熱中するタイプですので、あまり村のことに関しては詳しくありません。 宮乃香奈子について 「ああ、村で何度か見かけたことはあるよ。おばちゃんの話じゃ高台にある宮乃さんちの娘さんだとか…。だが、あんまり村の衆の話題にのぼらなかったから詳しくわしらんな。」 宮乃家の失踪について 「ああ、おばちゃんが話してたよ。二週間くらい前にぷっつりといなくなったみたいで。ぷっつりと、ぷっつりとな。」 「小さいながらも畑を耕していたみたいだけど、聞いた話じゃ高台とその周辺はみんな宮乃さんの土地だって言うじゃないか。結構土地持ちじゃないか。分けて欲しいくらいだよ。」 .2.2. 崖沿いの小道 室田の車が起伏の激しい山間地へと入る頃には、陽はだいぶ沈み当たりは夕暮れに包まれます。舗装されていない山道を揺られながら進んでいると、目の前に大きな断崖が現れます。崖下には川が流れていて、室田の説明ではこれが赤河村を流れる大川で、盆地にある朱河村にはこの崖沿いの細い道を通ってしか行き来できないと言います。 .3. 夕暮れの朱河村
切り立った岩山を過ぎるとようやく視界は開けます。周囲を切り立った山々に囲まれた小さな盆地の集落、ここが朱河村です。オレンジの夕陽に照らされた村はどこか色褪せた風景で、田畑では村人達が農作業に勢を出しています。田圃のあぜ道を身重の婦人が子供の手と山芋の入ったざるを持ちながら歩いているのが見えます。手を繋いでいる子供はシャボン玉を飛ばして遊び、母親らしき女性はそれを見て「シャボン玉の歌」を歌っています。
「しゃーぼんだーま、飛んだ。屋根まで飛んだ。屋根まで飛んで、壊れて消えた。 かーぜかーぜ吹くな、シャボン玉とばーそ。」 シャボン玉は一陣の風に吹かれて舞い上がり、そして次々にはぜていきます。 農家の脇を通ると鶏の騒ぐ声が聞こえます。長閑な田園の夕暮れです。 夕陽を反射してか、朱河村を流れる大川は朱色に染まったように見えます。室田はこの眺めが赤河村の由来だと説明します。 朱河村は人口100人前後、10戸ほどのの小さな集落です。主に農業で生計を立てていてほぼ自給自足の生活です。 村は中央付近の雑木林を境に大川の上流である“上手(かみて)”と下流付近で道路に続く“下手(しもて)”に別れています。“上手”“下手”双方に民家が集中しており、雑木林を迂回するように川沿いを通るあぜ道が唯一上手と下手を結んでいます。。 以下に戸主の名字を上げておきます。 宮乃家(宮司) 牧村家(地主) 川戸家(上の川戸さん) 川戸家(下の川戸さん)鳴子家 満沼家 猪岡家 高山家 吉川家 川岸家 室田は村の入り口付近の仮住まいに車を止めます。これ以降は道が狭くて車が入るのは困難だからです。元は小作人の家だという室田の自宅は、木造平屋建てのこじんまりとしたものです。車を軒先に止めると、土間から線の細い色白の少年が出てきます。牧村伸彦です。伸彦は村の生活(主に父親に)嫌気が差し、都会で生活していた室田のところに来て勉強を教わっていました。この村には教師のいないので、室田は生活の糧として村人に頼まれ私塾を開いています。 伸彦はPC等に挨拶すると室田に香奈子を見かけなかったか、と尋ねてきます。PCが理由を聞くと、PC1に手紙が届いた日(1〜2日前)からどこにも見あたらないというのです。伸彦は父磐之介が香奈子を呼びだしたことを、頻繁に会っていた香奈子自身から聞いていますが、父親に問いただしたところ逆上されたため香奈子の身の上に不安を募らせています。しかし、家庭内のことですのでこのことは誰にも話しません。 室田の返事が芳しくないものでしたので、伸彦は肩を落として帰宅します。牧村家は宮乃家と同方向にありますので、PC達は同行を求めるかも知れません。伸彦はこれに応じます。この時PC達は伸彦に話を聞くことでしょう。ここで伸彦の答えうる情報を掲載します。 ・香奈子とは幼なじみ。伸彦は幼い頃病弱で子供達の集団に入れなかったので、村人から疎外されていた香奈子と親しくなった。 ・村ではかつて“ヒメ様”信仰なるものが行われていたらしい。村の衆が時たま口にするくらいで詳しくは知らない。 ・「新世界より」の楽譜を頼んだのは自分である。香奈子が好んでいたというので、自分も演奏してみたいと頼んだ。 そして伸彦は深刻な表情でこう呟きます。「香奈子さんの身に何かあったら、僕は…。」 陽は山々の向こうに沈み、村は黄昏時になりました。伸彦の案内に従って村の上手に進むと、村の中心である広場の前に大きな屋敷が見えます。これは牧村家の屋敷です。黒塗りの垣根と用水路の堀に囲まれ、ある種城塞のように堅牢な造りをしています。明らかに地主の屋敷だと分かることでしょう。 伸彦に同行していれば「香奈子が見つかったら教えてください」と言い残し、深刻そうな様子で屋敷へと入っていきます。伸彦が垣根の門を入ると、女性の誰何の声が上がります。 「滝田? 滝田なの? 帰っていらっしゃったの!」 声の主は十代後半の派手な着物姿の女性で、その顔立ちは伸彦そっくりです。彼女は珠恵です。珠恵は伸彦の姿を確認すると明らかに落胆し、非難の声を上げます。 「なんだ。伸彦なの。期待して損じたわ。伸彦、そちらの人たちは?」 「こちらは香奈子さんのご友人方だよ。」 「あらそう。それはそれはわざわざ遠いところまでご苦労なこと。皆さん、せいぜいごゆるりと」 そういって適当にPC等と挨拶を交わすと、珠恵はそのまま屋敷へと戻ってしまいます。 「あれは双子の姉の珠恵です。失礼なこと言ってすみません。」 .4. 宮乃家にて 牧村磐之介と秘書二人は宮乃家に乗り込み、儀式の再開の求めましたが、厳男の強固な反対に遭い逆上し、厳男夫婦を殺害します。彼らは殺人の事実を隠すために隠蔽工作を行いましたが、PC達の専門的な捜査の前に事実は暴かれることでしょう。 宮乃家は村の外れにある高台に古いながらも造りのしっかりした屋敷を構えています。部屋数は二階も含めて十部屋、土間の脇には厩もありますが現在は使われていないようです。広い屋敷内ですが使われている部屋は少なく、ほとんどが物置代わりに利用されています。生活感のある部屋は居間と厳男夫妻の部屋、そしてごく最近使われた形跡のある二階の一室です。二階は若い女性の衣類や化粧品、そしてヴァイオリンがおいてあることから香奈子が使用していたと憶測できます。当然ヴァイオリンケースには「宮乃香奈子」と記されています。 PC達は屋敷内を捜索しようとするでしょう。<手がかり>ロールに成功すると、居間の床の間で血痕を見つけます。血痕は途中で切り取られたように消えていることから、血が飛び散った時ここには座布団か何かが置いてあったと推測できます。こういった血痕は居間の所々から発見することができます。その幾つかは念入りに掃除された形跡があります(掃除は念入りでしたがきれいにはできなかったようです)。<分析力>ロールに成功すると、広い範囲に飛び散った血痕から、負傷者は既に死亡している可能性が高いと判断できます。 また、床の間の上にある神棚には竹筒に入った若水が5本と「朱河村祭事詞」と金地で記された漆塗りの豪華な箱が置いてありますが、中は空です。 ・若水:神社等で清められた水。<聖水>と同様の効果。 .5. PC達の行動について 宮乃家の状況をみたPC達は何らかの事件が起きていると察知し捜査を開始するかもしれません。しかし、日が落ちた寒村で本格的な調査を行うことは難しいと告げてください。農村の朝が早いように、夜も驚くほど早いのです。 他に考えられることとしては<セアンス>や<ダウジング>といった霊能力を用いた調査です。厳男夫婦の霊は宮乃家の裏手の岩座敷にいるので、<セアンス>でその場にいる霊として呼び出すことはできません。また、屋敷中をくまなく調べて厳男夫婦を降霊するのに必要な情報集めた上で<セアンス>を試みる場合、突然香奈子のヴァイオリンが悲鳴のような音を上げます(恐怖判定が必要です)。厳男夫婦は喉元を切り裂かれており声を発することができないのです。 <ダウジング>で厳男夫婦や香奈子を捜索しようと試みるPCもいるかもしれません。この場合<ダウジング>に成功すると、どちらも屋敷の北の山を指し示します。大成功を治めた場合は厳男夫婦の方では数百m程、香奈子の方では十数km程先であることが分かります。 このほかにも行動するようなPCがいるようでしたら、次のイベントを発生させてください。 .6. 白い人影 宮乃家での調査が一段落すると、PCの元へ室田が訪ねてきます。彼は大きな鍋と白菜・韮・大根などを抱えるように持ち、大人数用の鍋を買ったのだが一人では到底食きれそうにないので一緒に鍋でもしないか、と提案してきます。彼は大量の野菜類を村の人から貰ったものと云ってPC等に提供します。 夕食が終わると室田は持参した焼酎をPC等に振る舞います。しかし真っ先に酔っぱらうのは彼です。ささやかな宴が終わることには完全に正体が無くなっています。彼はこの期に及んでも自宅へ帰ることを頑固に主張します(酔っ払いとは異常に頑固になるものです)。PC達の目には、室田がまともに帰れないことは明らかでしょう。PC等が室田を送るようでしたら、次に起こるイベントにて<聞き耳>と<追跡>ロールに+30%の修正が加わります。 PC等がなかなか寝付かれなかったり、夜の村を徘徊していたら突然絹を引き裂くような悲鳴が上がります。<聞き耳>−30%ロールに成功するとそれが牧村の屋敷から発せられたものであると分かります。PC達が牧村家へ急行するようでしたら、彼らは雑木林へと消える白い人影を目撃します。その人影は白い着物に赤い袴を穿いているように見えます。室田が同行している場合、白い影を幽霊の類と思いこみその場で卒倒します。 屋敷の方では悲鳴やら怒号が飛び交い、混乱している様子です。この白い影を追跡するには<追跡>ロールが必要となります。 <追跡>ロールに成功すると、人影が大川の流れる峡谷沿いに向かっていることに気がつきます。そして峡谷に到着した瞬間、さらに下流の崖から白い影が飛び落ちるのを目撃します。 これらは全て伸彦の行動です。彼は巫女の姿をして香奈子になりすまし、屋敷内で父磐之介を驚かそうと考えています。うまく行けば香奈子の安否なり生死なりを確認するかも知れないと考えたからです。 彼は峡谷沿いに逃走した後、羽織っていた白装束に石をくるんで河へと落とし、追っ手を誤魔化そうとしています。 PC達が川沿いに留まっていると(さも道を歩いていたら見かけたように)伸彦が近づいてきます。平静さを保つよう努力していますが、伸彦の額からは玉の汗がじわじわと流れ息が上がっています。 「どうしたんです? 何かあったんですか?」 伸彦は村への入り口となる峡谷近くの資材置き場で仕事をしている兄の伸介を呼びにここを通りかかったと言い訳します。村の中心部には車が入ることができないので、別個に資材置き場を設けて都会で購入した灯油や農薬、工事用のダイナマイトなどを保管してあります。 この発言にはあきらかに不自然です。牧村家で騒動が起こる前に家を出たのならば、PC達は伸彦を追い越したことになります。雑木林を通りショートカットしたからと云って、先行している伸彦に追いついてしまうと云うのはあまりにも出来過ぎたタイミングです。 上記のことを指摘すれば伸彦は諦めたかのように自分の犯行を認めます。観念した彼は父磐之介が失踪直前に香奈子を呼び出していたことをPCに伝え、今回の香奈子の失踪に磐之介が何らかの関わり合いがあるのではと思っていることを話します。そして宮乃家から巫女装束が一着無くなっていたことから、巫女装束を来て歩けば父が香奈子ではと勘違し、父が今回のことに関与していれば香奈子の安否を確認するため何らかの行動に出るのではと思ったと言います。 伸彦との会話が一段落したら、下手の方から男性が歩み寄ってきます。伸彦とは顔立ちが似ているけれど痩せこけて気弱そうな印象の男性です。彼が牧村伸介です。伸介は愛想良くPCに話しかけてくるのですが、なぜか貧相な印象が拭えません。 伸介は宮乃夫妻や香奈子について、他の村人達が知りうることしか分かりません。また、ヒメ様信仰についても、過去にこの村で祀られていたという程度の知識しかありません。 伸介がやってくると、伸彦はPC等に目配せをして今回の事件のことの口止めをします。恐らくPCたちはこの提案を了解することでしょう。また、PC達が伸介に今回の事件の真相を説明してしまった場合、兄弟思いな伸介は「家族の問題ですから」といって伸彦を庇います。この場合では伸彦がPCたちを信頼することはありません。 伸彦の行いを秘密にした場合、彼はPCらと明日会う約束を交わしてから自宅へと戻っていきます。 シーンを区切るためにここで休憩時間などをとると、より効果的でしょう。 |