80.国民負担率と国際比較 (2007年10月17日記載)
今、格差論議が盛んである。その過程で、福祉政策の充実を要求する意見が強まりつつある。その一方で、巨大な借財を抱える国家財政を問題視して、もっと「小さな政府」を目指すべきだ、という意見もある。そこで、今回は、国民負担率の国際比較をベースに、日本の国民負担の現状を分析し、今後のとるべき道を検討することとする。
T.国民負担率について:
国民負担率は、国民の国や社会に対する毎年の金銭的な負担の度合いを表す指標であり、租税負担率と社会保障負担率からなっている。比率は国民所得に対する割合として算出される。年金、健康保険等の社会保障負担は、個人の負担と事業所の負担を合わせたものである。

T−1.国民負担率の国際比較と推移(図1):
財務省のホームページのデータに基づき、国民負担率の国際比較と年次推移を、右に図1として示す。比較対象に選んだ国は、米国、英国、ドイツ、フランス、スウェーデンの5カ国である。
T−1−1.各国の状況:
(1)スウェーデン: 右の図を見ればわかるとおり、国民負担率は、日本を含めた6ヶ国の中で常にトップである。1970年には、55.4%であったのが、1990年には、79.6%まで上昇した。しかし、その後低下傾向となり、2004年には70.2%となっている。それでも、この値は、2位のフランスの61.0%を9.2%も上回っている。
(2)フランス: 1970年には46.5%で、6ヶ国中3位であったが、1975年以降は、ずっと2位となっている。そして、2000年には64.8%まで上昇したが、その後は、低下傾向となっている。。
(3)ドイツ: 1970年には40.6%で6ヶ国中4位であったが、1995年に56.3%まで急上昇した。その後やや低下したが、2004年には51.3%で、3位である。
(4)英国: 1970年には、48.1%でスウェーデンに継いで2位であった。しかし、その後、ドイツに抜かれて3位になった。1985年ないは53.2%まで上昇したが、1979年から1990年まで続いたサッチャー首相が進めたサッチャー改革のあおりで、国民負担率は減少傾向となり、1995年からは、フランスにも抜かれて4位となった。そして、2004年には、47.5%で、1970年の負担率を下回ってしまった。
(5)米国: 1970年には、33.8%で5位であったが、英国を除く4ヶ国が、2000年までに負担率を大きく上げたのに対して、ほぼ横ばいで推移した。そして、1985年には日本に抜かれて最下位となった。2004年の負担率は、31.9%であり、1970年の負担率を下回っている。
(6)日本: 1970年には、24.3%で最下位であった。その後、負担率はスウェーデンやフランスのように大きく上昇し、1985年以降は、米国を抜いて5位となった。しかし、2000年以降は、他の諸国と同じように、負担率は伸び悩み、2004年現在でも38.2%第5位のままである。
T−1−2.データから読み取れること:
(1)国民負担率のトレンド:
@ ドイツと米国を除けば、1990年頃までは負担率は上昇している。これは、「福祉国家」という概念があり、多くの国が、「高福祉高負担」路線を選んだ結果と言えるであろう。
Aしかし、1990年代に入り、ドイツと米国以外は、負担率がほぼ横ばいへと転化した。
Bそして、2000年代に入ると、ほとんどの国が負担率を減らし始めた。これは、経済の悪化に伴い、行き過ぎた福祉は経済成長に悪影響を与えるという考えが生まれ、自己責任と市場主義を掲げる「新自由主義」経済理論が主流となってきたからである。
Cただ、現在、日本で問題となっている「格差」の大きな原因は、この「新自由主義」経済理論に基づく「構造改革」にあると思われるし、この理論が、現在の経済情勢に果たして適合しているとも思えない(この点については、第U項で分析する)。
(2)スウェーデンとフランスは、2004年現在の国民負担率が60%を超えており、高負担をベースに「福祉国家(高福祉高負担)」を目指している、と言えるであろう。
(3)一方、日本と米国は、2004年現在の国民負担率が30%台に留まっており、自己責任をベースにした「脱福祉国家(低福祉低負担)」を目指している、と思われる。しかし、日本国民は本当に、米国型の「自己責任国家」を求めているのであろうか?この点については、また、別の機会に分析してみたい。
(4)また、ドイツと英国は、2004年現在の国民負担率が50%前後であり、中福祉中負担を目指していると言えるであろう。
T−2.租税負担率の国際比較と推移(図2):
国民負担率の一部である「租税負担率」の状況について、右の図2に示す。
T−1−1.各国の状況:
(1)スウェーデン: 右の図をみればわかるとおり、6ヶ国中で常にトップであり続けている。1970年には、43.9%であったのが、1990年には、57.5%まで上昇した。しかし、その後低下し、2004年には49.9%となっている。それでも、この値は、2位の英国の37.1%を12.8%も上回っている。
(2)フランス: 1970年には28.4%で、6ヶ国中3位であった。その後、上昇を続け、2000年には39.8%となったg、やはりスウェーデン、英国についで3位であった。そして、2004年でも36.8%で、英国(37.1%)よりわずかに少なく3位である。
(3)ドイツ: 1970年には26.2%で6ヶ国中5位であったが、1975年からは米国を抜いて4位となった。1990年には、一時的に租税負担率を大きく上げた日本に抜かれて5位になったが、1995年には再度逆転し、2004年でも27.5%で4位である。
(4)英国: 1970年には、40.3%でスウェーデンに継いで、3位以下を大きく引き離して2位であった。その後、ほぼ横ばいで推移しており、租税負担率を大きく上げてきたフランスと、2位争いを演じている。
(5)米国: 1970年には、27.6%で、フランスよりもわずかに少なく4位であったが、英国を除く4ヶ国が、その後、租税負担率を上げたのに対して、ほぼ横ばいで推移した。その結果、1985年には日本にも抜かれて最下位となったが、1995年以降は、租税負担率を下げてきた日本を上回って5位となり、2004年でも23.2%で日本(22.6%)をわずかに上回り、5位のままである。
(6)日本: 1970年には、18.9%で最下位であったが、その後、経済の成長に合わせるように租税負担率は急上昇し、1990年には27.6%となって、6ヶ国中4位となった。しかし、バブル経済の崩壊の結果、経済の建て直しを目指して減税政策が採られた関係から、1995年以降租税負担率は急減し、最下位となり、2004年でも6位のままである。
T−1−2.データから読み取れること:
(1)租税負担率のトレンド:
@国民負担率と同じように、ドイツとアメリカは、1990年まではほぼ横ばい傾向である。しかし、ドイツは、1995年に一旦大きく租税負担率を上げて31.2%となったが、、その後再び低下させている。一方、アメリカは、その後やや上昇したものの2000年の27.4%をピークに低下傾向になった。
Aイギリスはアメリカと同じように、租税負担率はほぼ横ばいで推移している。そして、2004年の租税負担率が1970年の負担率よりも低い、という点でもアメリカと同じである。
Bスウェーデンとフランスの場合は、一旦大きく上昇した後、やや低下しているが、それでも2004年には、1970年に比べてかなり高い祖税負担率となっている。
C日本の租税負担率は、途中で大きく上がったものの、その後再び低下し、1995年以降は最下位のままである。
(2)2004年のデータから見ると、スウェーデンの「高負担」は租税負担率が高いためである、ということがわかる。
(3)フランスとイギリスは、租税負担率でみれば同じくらいであるが、「社会保障負担率」の違いが、国民負担率の違いを生み出していると言える(次のT−3項参照)。
(4)ドイツの場合も、租税負担率は低いが、高い社会保障負担率の結果、中福祉中負担となっている。
(5)日本とアメリカは、低い租税負担率がそのまま「低福祉低負担」に直結している、と言える。

T−3.社会保障負担率の国際比較と推移(図3):
国民負担率のもう一方の構成部分である「社会保障負担率」の状況について、右の図3に示す。租税負担率とは、かなり、違った状況がみてとれる。
T−1−1.各国の状況:
(1)スウェーデン: 右の図をみればわかるとおり、若干の変動はあるもの6ヶ国中で3位である。1970年には、11.6%であったが、その後急上昇し、2001年には22.3%まで上昇した。しかし、その後低下し、2004年には20.2%となっている。
(2)フランス: 1970年には18.1%でトップであったが、その後も急上昇し、1985年には28.6%となった。しかし、2000年には25.0%まで低下し、その後は、ドイツとほぼ並んでトップを争っているが、2004年には24.2%でトップとなった。
(3)ドイツ: 1970年には14.4%で6ヶ国中2位であったが、1995年に25.1%まで上昇し、2000年には25.3%となり、フランスを抜いてトップとなった。しかし、2004年は23.8%で2位である。
(4)英国: 1970年には、7.9%でスウェーデンに継いで、4位であったが、1985年の11.3%まで、若干上昇した。しかし、その後はほぼ横ばいで推移しており、同じような傾向を示している米国と最下位争いを演じている。2004年には、10.5%で米国を若干上回り5位であった。
(5)米国: 1970年には、6.2%で、日本よりもわずかに多く5位であったが、日本が、その後、社会保障負担率を上げ続けたのに対して、1995年以降は低下傾向で推移した。その結果、19880年には日本にも抜かれて最下位となり、1995年に英国と同一(10.0%)で最下位を分け合った年をそぞき、常に最下位である。2004年でも8.7%で最下位のままである。
(6)日本: 1970年には、5.4%で最下位であったが、その後、経済の成長に合わせるように租税負担率と同様に上昇した。そして、1990年以降は4位となり、租税負担率が上昇から低下に転じた1995年も上昇を続け、2004年には14.4%で4位のままである。
T−1−2.データから読み取れること:
(1)フランスとドイツは、社会保障負担率が極めて高い国である。
(2)それに対し、英国と米国は、社会保障負担率が極めて低い。
(3)一方、スウェーデンは、どちらかと言えば高く、日本はどちらかといえば低い。
T−4.租税負担率と社会保障負担率の比較と推移(図4):
租税負担率と社会保障負担率との比較について、各国別に1970年と2004年の状況を比較したものを右の図4として示す。
T−4−1.租税負担率と社会保障負担率のによるグループ分け(表1):
租税負担率と社会保障負担率が高いか低いかによって、右下の表1のように、大きく4つのグループに分けてみる。
| 表1 租税負担率と社会保障負担率 | |||
| 租税負担率 | |||
| 高い | 低い | ||
| 社会保障負担率 | 高い | A | B |
| 低い | C | D | |
(3)Cグループ(租税負担率は高い(30%超)が社会保障負担率は低い(15%以下)国):
@1970年には、スウェーデンと英国がCグループであった。
A2004年には、スウェーデンがAグループに移り、英国だけがCグループに留まった。
(4)Dグループ(租税負担率も低く(30%以下)、社会保障負担率も低い(15%以下)国):
@1970年には、ドイツ、米国、日本の3カ国がDグループであった。
A2004年には、ドイツがBグループに移ったが、米国と日本はDグループのままである。
T−4−2.グループ分けから見えること:
上記のグループ分けから以下の事が言える。
(1)高福祉高負担(Aグループ:スウェーデン、フランス):
@スウェーデンは、1970年には高い租税負担をベースに高福祉を実現していたが、高福祉のレベルを更に高めるために、社会保障負担率も高負担へと引き上げていった。
A一方、フランスは、租税負担率と社会保障負担率の両方のバランスを取りながら、引き上げることで、高福祉高負担を実現している。しかし、フランスも、米国流の自己責任社会を目指すサルコジ大統領になったことから、今後の動向が注目される。
(2)低福祉低負担(Dグループ:米国、日本):
@米国は、自己責任の国であり、市場原理をモットーとしているので、国民負担率は極めて低いが、とくに、社会保障負担率が極端に低い。この理由は何なのか、別の機会で分析してみたい。。
A日本は、1970年の頃は、まさに「低福祉低負担」そのものの国家であったが、経済成長と共に、「ヨーロッパ型の福祉国家」を求める世論が高まり、社会福祉の充実を目指して国民負担率も高まってきた。とくに、1972年には老人医療費の無料化が始まり、「福祉元年」とも言われた。しかし、1990年代に入ってバブル経済が崩壊すると、財政赤字の解消を目指す「小さな政府」が唱道されるようになって、福祉予算は削られる傾向となり、結果として、米国型の「低福祉低負担」国家のままになっている。
ただ、米国と異なる点は、2004年においては、社会保障負担率が高い事(約1.7倍)である。この理由は、また、別の機会で分析してみたい。
(3)中福祉中負担(B・Cグループ:ドイツ、英国):
@ドイツは、1970年には、ぎりぎりで、「低福祉低負担」の国家グループに入っていたが、その後、社会保障負担率を大きく高めて、中福祉中負担国となった。
A英国は、高い租税負担率のおかげで「中福祉中負担」国家と分類されるが、社会保障負担率は、米国に次いで低い。社会保障負担率が低いのは、アングロ・サクソン国家に特有な社会形態なのであろうか?
U.租税負担率と経済成長率:
租税負担と経済成長の関係について、参考文献1(「脱「格差社会」への戦略」、神野 直彦、宮本 太郎、岩波書店)の記述に基づいて分析してみよう。

U−1.1970年代(右の図11):
OECDのデータに基づき、1970年代の租税負担率(対GDP)とGDPの平均実質成長率との関係を、右の図11で示す(参考文献1より引用)。
(1)租税負担率と経済成長率との間には、それほど顕著な関係はみられない。
(2)ノルウェーやアイルランドの租税負担率は、日本よりも大幅に高いが、実質経済成長率も日本よりも高い。
(3)スイスの租税負担率は、イギリスやスウェーデンのそれよりも大幅に低いにもかかわらず、実質経済成長率は、最も低い。
(4)この頃は、ブレトン・ウッズ体制のもとで、各国の所得再配分政策がよく機能しており、租税負担が高くても低くても、経済成長には大きな影響は与えなかった、と言える。
U−2.1980年代(右の図12):
OECDのデータに基づき、1980年代の租税負担率(対GDP)とGDPの平均実質成長率との関係を、右の図12で示す(参考文献1より引用)。
(1)1980年代のポスト工業化時代に入って、資本が海外へ自由にフライト出来るようになると、状況は変わってくる。
(2)租税負担率の低い国のほとんどは、実質経済成長率は高くなった。(右の図12からもわかるように、スペインを例外として、日本・米国・オーストラリア等、租税負担率の低い国ほど、実質経済成長率は高い)。
(3)租税負担率の高い国は、実質経済成長率は大体低くなっている。(右の図12からもわかるように、租税負担率の高い北欧諸国の実質経済成長率は一様に低い)。
(4)このような状況では資本所得への重課を前提とした所得再配分は、うまく機能しなくなり、市場主義を前提とした新自由主義が脚光を浴びるようになった。
U−3.1990年代(右の図13):
OECDのデータに基づき、1990年代の租税負担率(対GDP)とGDPの平均実質成長率との関係を、右の図13で示す(参考文献1より引用)。
(1)1990年代に入ると、事態は再び変化する。租税負担と経済成長との関係が、1970年代の時のようにフラットとなったのである。
(2)右の図13からもわかるように、スイスや日本は、スウェーデンやデンマークに比べて租税負担率が大幅に低いにもかかわらず、実質経済成長率も低い。
(3)一方、ノルウェーは、米国やオーストラリアよりも実質経済成長率は高いが、租税負担率も極めて高い。
(4)1980年代にトップクラスの経済成長を遂げていた日本もスイスに次いで下から2番目になってしまった。
(5)つまり、税負担を低くしても経済成長をしない、という事になり、新自由主義に基づく政策はもはや時代遅れになった、と言わざるをえない。
(6)それにもかかわらず、日本ではいまだに、新自由主義経済政策に基づく「小さな政府」「福祉切捨て」路線がとられており、それが、ワーキングプア等を生み出して、「格差拡大」をもたらしている。経済政策の転換が求められるゆえんであろう。
V.社会支出と社会保障給付:
前項までは、国民負担率を中心に分析してきたが、ここでは、社会政策のどんな分野に支出されているのか、また、社会保障給付費の状況は、といったことについて、国際比較をしてみたい。

V−1.政策分野別社会支出(右の図14):
OECDのデータに基づき、2001年度の政策分野別社会支出の対国民所得比の国際比較を右の図14に示す(参考文献1より引用)。
(1)図14が示すように、各国毎の社会支出の対国民所得比の大きさは、図1で示した国民負担率の大きさの順になっている。
(2)日本の支出状況を他国と比べると以下の事がいえる。
@「老齢現金(年金)」の比率は、米国よりは高いが、残りの4国と比べると、6割くらい低い。
A「保健医療」については、英国・米国よりもわずかに高いが、残りの3ヶ国と比べると、8割前後の低さである。
B年金・医療の分野は、低いとはいっても、ヨーロッパ諸国と比べた場合、ある程度のレベルは維持しているが、それ以外の項目では、極めて低くなっている。
C「家族への現金支給」は1割くらい、「高齢者現物」「家族現物」は5割以下、「その他」は3割以下、といった低さである。
注: 「その他」には、育児や養老などの生活に密着した対人社会サービスにかかる費用も含まれている。
(3)現在、「日本の社会支出は、年金・医療といった高齢者向けに偏っており、児童手当等の若者向けの給付が少な過ぎる。したがって、高齢者向けの給付を減らして、若者向けに回すべきである」、と主張する勢力がある。この主張の前半はある程度正しいが、後半は完全に誤りである。
(4)正しくは、「現在の日本は、完全に米国型の福祉政策をとっている」、ということであり、「ヨーロッパ型の福祉社会」を目指すのであれば、「社会支出を現状の5割以上増やすべきで、その増やした部分は、若者向けに重点的に配分するべきである」、ということであろう。

V−2.社会保障給付費対国民所得の国際比較(右の図5):
厚生労働省のホームページのデータに基づき、2001年度の「社会保障給付費の対国民所得比」の国際比較を右の図5に示す。
(1)この図5は、前項の図14とほぼ同じ傾向を示しているが、米国との差は大きくなっている。。
(2)「年金」については、フランス、ドイツには及ばないが、スウェーデンや英国に迫る水準である。
(3)「医療」については、スウェーデン・フランス・ドイツを下回ってはいるが、英国よりはわずかではあるが高い水準である。
(4)このように、日本の「年金」「医療」のレベルは、「低福祉」ではなく、「中福祉」といえるであろう。
(5)しかし、「福祉等」という領域においては、大きく見劣りがしている。英国の半分以下、フランスやドイツの3分の1以下、そして、スウェーデンの5分の1(22%)くらいである。
(6)前項(4)で述べた事の繰り返しになるが、日本は、現在進めている「小さな政府」路線を続けていくと、米国型の「自己責任」「市場主義」社会となってしまう。私としては、それだけはなんとしても避けて欲しいと切望している。それよりは、「ヨーロッパ型の福祉社会」を目指して、「福祉等」の領域を重点的に社会保障給付費の増額をして欲しい。
W.法人負担について:

社会保障給付費増額する場合、その財源はどうしたらよいだろうか?財源の候補として、私は法人負担の増額を提案したい。
前回のコラム「79.所得格差と格差拡大税制」で分析したように、1990年代以降、富裕層と大企業を対象に租税負担が大きく引き下げられた。その際、「法人税」について言われたことは、日本の法人税の実効税率が国際的に見て極めて高く、企業の国際競争力を弱めている、という事であった。
しかし、法人負担という捉え方をすれば、法人税だけでなく、社会保障負担もあわせて考える必要がある。
ここでは、そうのような観点から「法人負担」について分析してみよう。
W−1.法人税実効税率の国際比較(右の図表2−1):
2002年1月1日現在の法人実効税率の国際比較を右の図表2−1に示す。(日本、米国、英国、フランス、ドイツについては、現在も大体同じ水準である)。
(1)右の図表2−1を見る限り、日本の法人実効税率が、一番高い。
(2)ただし、国税だけをみれば、フランス・米国・英国・スウェーデンは日本より高い。
(3)財務省のHPから得られるデータによれば、ドイツと英国は、2008年4月から法人減税を行うので、以下のように低下する、と見積もられている。
@ドイツ: 2007年までは38.65%、2008年以降は29.83%。
A英国: 2007年までは30.00%、2008年以降は28.00%。
(4)こうした現実を見ると、日本の法人実効税率は極めて高く、財界が法人税の減税を求めるのも、もっともかのように思える。しかし、税金だけでなく、社会保険料負担も含めた場合はどうなのかを次に分析しよう。
W−2.企業の税・社会保険料負担の国際比較(対GDP比)(右の図6):
企業の法人所得税と社会保険料の事業主負担分を合算した数値を名目GDPで割った比率の国際比較を右の図6に示す。この図は、参考文献2(「日本の経済−歴史・現状・論点」(伊藤 修著、中公新書))の表から作成したものである。
注: 米国の社会保険料負担には、民間医療保険に対する企業負担分は含まれていない。したがって、米国の企業負担分は右の図6の数字より大きくなる。(米国は、国民皆保険制度をとっていない国であるため、多くの企業において、従業員の福利厚生の一環として、従業員を民間の医療保険に加入させ、その保険料の一部または全部を事業主が肩代わりしている)。
(1)GDPとの比率でみた場合、日本企業の租税負担率は大きい(図6に載っている8ヶ国中、韓国に次いで2位である。
(2)しかし、社会保険料負担も加味して考えると、日本企業の負担率は大きいとは言えない。
(3)フランス・イタリア・ドイツといったヨーロッパの企業は、租税負担率では、日本企業よりも低いが、社会保険料負担が極めて大きいため、合計すると、日本企業を上回る負担をしている。
(4)とくに、フランス企業の場合、日本企業の倍近い負担率であり、このあたりにも、サルコジ新大統領が掲げた「新自由主義的」経済政策が支持された理由がありそうである。
(5)図6からもわかるように、日本が、「ヨーロッパ型の福祉社会」を目指すのであれば、企業の社会保険料負担をもう少し高くしてもよいのではないか、と思われる。

W−3.企業の税・社会保険料負担の国際比較(対賃金比)(右の図7):
企業の法人所得税と社会保険料の事業主負担分を合算した場合の賃金(労働費用)に対する比率の国際比較を右の図7に示す。この図も、参考文献2の表から作成したものである。ここでは、残念ながら、英国とスウェーデンのデータは得られなかった。
(1)賃金との対比でみた場合、法人所得税の比率は日本企業が一番大きい(フランスさえも上回っている)。
(2)しかし、年金保険料負担の比率をみると、米国企業よりわずかに多いが、フランス企業の半分以下、ドイツ企業の6割強に過ぎない。
(3)医療保険負担をみると、上の(2)で述べた傾向は更に強まってくる。(ただし、米国企業の場合、W−2項の注記で述べたような事情から、実際の医療保険負担はこの数字(1.5%)より多い)。
(4)介護負担では、介護保険を導入しているのは、日本とドイツだけであるから、フランス企業や米国企業はゼロである。
(5)雇用保険負担の比率をみると、日本企業の負担は極めて少ない。
(6)総合的に言って、日本企業の税・社会保険料の負担と賃金との比率は、米国企業よりは高いが、ヨーロッパ企業よりは低い、と言える。ただし、米国企業の、民間医療保険に対する事業主負担を考えると、日米企業の差はあまり無いのでは、とも予想される。
注: 米国の医療保険制度については、たとえば、以下のコラムを参照ください。
「74.アメリカの医療制度(1)」、「75.アメリカの医療制度(2)」、「76.アメリカの医療制度(3)」
X.最後に:
日本は、バブル経済の崩壊以降、経済を建て直すために、新自由主義経済理論をベースとした「構造改革」をすすめ、米国型の「自己責任」「市場主義」といった経済構造への切り替えを進めてきた。このことは、このコラムで分析した、国民負担率や社会支出の推移と国際比較をみれば明らかである。
しかし、そうした施策が、弱者切捨て、地方切捨てにつながり、格差拡大をもたらした、といえる。そして、その結果が、前回の参議院選挙の与党の敗北の原因の一つとも考えられる。つまり、日本国民は、米国型の社会への転換を望んでいない、ということであろう。
米国型の社会ではなく、ヨーロッパ型の社会を目指すのであれば、福祉予算を切り詰めて「小さな政府」を目指すのではなく、福祉予算を拡充しなければならない。そのためには、国民負担率を増やす必要がある。その財源としては、ここで分析した「法人負担の増大」や、前回のコラムで指摘した「富裕層への優遇税制」の転換、あるいは、消費税増税等が考えられる。
どの路線をとるべきか、それを決めるのは国民であり、近く予想される衆議院の解散総選挙の結果が、方向を定めるきっかけとなるであろう。。
参考文献: 1.「脱「格差社会」への戦略」、神野 直彦、宮本 太郎、岩波書店
2.「日本の経済−歴史・現状・論点」、伊藤 修、中公新書
3.「社会保障を問い直す−年金・医療・少子化対策」、中垣 陽子、ちくま新書
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北欧に関するコラムは以下の通り。
| 84.福祉国家の経済成長−北欧の挑戦と日本の凋落 |
| 85.北欧諸国と日米英独仏の比較 |
| 86.北欧諸国の教育・福祉制度 |
格差に関するコラムは以下の通り。
| 33.データから見る格差 | 34.新しい階級社会の誕生 | 35.様々な格差 |
| 36.老人格差 | 44.ワーキング・プア | 53.所得格差と国際比較 |
| 59.教育格差と格差の世襲 | 60.教育格差の現状 | 61.教育格差と国際比較 |
| 64.団塊の世代と団塊格差 | 65.団塊ジュニアとその格差 | |
| 66.団塊ジュニアの結婚格差と少子化問題 | 79.所得格差と格差拡大税制 | |
| 46.経済のグローバル化 | 47.正社員システムの崩壊 | 48.年功序列賃金の崩壊? |
| 49.労働組合の衰退 | 50.多様化する雇用形態 | 52.いじめられるサラリーマン |
| 54.フラット化する世界(1) | 55.フラット化する世界(2) | 57.フラット化する世界(3) |
| 58.フラット化する世界(4) | 22.雇用状況の変遷 |
医療制度に関するコラムは以下の通り。