雨の夜の温もり (『Sette Porte』より)

 このSSは……
1)シスター・プリンセス(以下:シスプリ)が嫌いな人
2)シスプリは好きだけどその二次創作が嫌いな人
3)シスプリで衛が余り好きでない人
4)原作の設定に則っていないと嫌な人
5)マイシスである衛が悩んでいる&泣いているシーンなんて見たくない人
6)このSSの作者である『ほろふる!』が嫌いな人

 ……これらのうち,ひとつでも当てはまる人は読まないで下さい ませ。
 これらの条件に一つも当てはまっていなければ是非とも
読んでやってください。

――ザー……――

 今日も昨日も一昨日も、降りしきる雨と雨雲で灰色の世界となっているこんな季節。

 オレ――双刃輝晃(ともは てるあき)――は傘も差さぬまま、筆記具以外殆ど入っていないカバンを
傘代わりにして家路を急いだ。 その途中で、ジャージ姿の見慣れた姿が目に入った。
……妹の『衛』だ。

 だが、この連日の雨の所為なのか、何時もよりも表情が暗い。

  「お〜い、どーしたんだ衛?」

 とりあえずオレは、衛に近づき声をかけてみる。もしこれで衛は何かあった時には決まって、

「『どーした』って? なんでもないよ……あにぃ…」
 …と『お約束』のようになんでも無いように装うのだが…

「(…にしても、ここまでオレの予想通りであるとは…)」

顔では深刻な表情は隠せない。そこでオレは、

「そうか……オレは衛にとっては『その程度』でしか見ていないんだな…」

 オレはそう言ってカマをかける。

「そ……そんなんじゃないよ…! ボクはあにぃに心配かけたくないから……その…」

「判っているよ……でもさ、鈴凛程でないにしても、オレに相談しろよ…て、ここで立ち話も何だ。
オレの部屋で話の続きでもどうだ?」

 この梅雨空の下で長話してたら、互いに健康に悪い。そこでオレは衛と共に、この近くにある
オレの住んでいるアパートに向かうことにした。

「衛…、着替えを用意しておくからお前から先にシャワー浴びなよ。後、そのずぶ濡れになったジャージを洗濯機の中に入れといてな」

「うん……」

 衛が風呂の中に入るのを確認して、オレは衛の着替え用に自分のパジャマを脱衣場に持っていった。
脱衣場に入ると、シャワーの音に紛れて衛のむせび泣く声が聞こえる。オレは思わず……

「衛!!」

 ……のことが心配になり、風呂場のドアを開けてしまった…。いきなりオレが入って来たことにびっくりした衛は…

「あ……あにぃ!?」

 彼女はきょとんと立ち尽くして、それから今、自分がどんな状況かを思い出し……

「……いやぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

 と、衛はシャワー&風呂オケ攻撃でオレを追い払った。

「あ…たた…あぢぃ! ご…ごめん!」
 慌てて短く一言いい放ちながらオレは風呂場のドアを閉めた。


  そんなトラブルを抜きにして衛が風呂から出て、オレがシャワーで身体を温めてから10分くらい。

 互いに言葉もなく、ただ沈黙の中で無意味な時間を過ごしていた。言いたい言葉はお互いに1000くらいはあった筈なのに……。

 …オレはそんな状況が嫌になってきて、部屋に置いてあるMDマルチプレーヤーを起動させる。
 流れ出るMDから、こんな季節にぴったりな雨の曲――L'Arc〜en〜Cielの『Singin' in the Rain』――が
流れる。そんな中で、どちらからともなく……

  「「衛(あにぃ)…なにかあったの?」」

   ……と、二人異口同音に聞き出した。


   一瞬の沈黙、そこからどちらからともなくこぼれる笑み。そして……。

「…とりあえず、オレの方からがいいよな?」

 そう言ってオレは衛から悩みを聞くために自分が今悩んでいること――他愛もないけどお仕事関係での
悩み――を打ち明けた。オレは自分の悩みを衛に打ち明けた後で…

  「……ごめんな。オレばっかし話してたみたいで…」

 と、一言。

「んーん、それにしても……あにぃにも悩みがあるんだ」

「なんだよ! その『あにぃにも』ってのは! いくらオレでも…」

 わざとらしく語気を荒げる。

「ごめん…あにぃ」

 飼い主に叱られた子犬のようにしゅん、とする衛。そんな姿を見たオレは一寸ばつが悪そうに、

「……こっちこそごめんな…衛にあたっている様で」


  ――ザー……――


   再び訪れる沈黙の世界。激しくなる雨の音以外何も聞こえない。そんな中、衛が沈黙を破るかのように
ポツリと呟いた。

「あにぃ……ボクさ、今の部活やめたいよ……」

 彼女の方を見ると、いつも天井知らずで元気印を絵に描いた様な衛の、はじめて見せる表情が
目に入った。見ているこっちが悲しくなるくらい痛々しい顔つきが、部屋の壁をただじっと見ていた。

「ふぅ……どうやら、悩んでたのはそのことか…。衛、もう一寸詳しく聞かせてくれないか?」

 オレはさっきとは違う口調で、衛に話し掛けた。そして再び衛が口を開く。外から聞こえる雨の音の中、
衛の声は小さくではあるがはっきりと聞こえた。

「うん……今週の初めに、陸上部でボクがレギュラーに抜擢されてから…今までやさしかった先輩たちが
手の平を返すように冷たく当たってきて…」

「それって、衛を鍛えるためにやっているんじゃあ…」

「それだったらボクだって耐えられるさ…そういうのじゃなくて……『ナマイキだ!』とか『ぺーぺーの一年の
クセにあたしたち先輩からレギュラーの座を奪うな!』といって何かにつけてボクに嫌がらせをするんだ…」

 なるほどな……。体育会系の部活にはありがちの『縦社会』のそれにぶつかってしまったって訳か。
オレも中学の時それで悩んでたな……そう思いながら…

「嫌がらせって…どういった感じの?」

 地雷を踏むような感じで一寸気が引けたけど、オレは衛に詳細を聞いた。

「ボクの部活用のシューズを隠したり、ボクがいないスキに机の中に『死ね』とか『実力無いくせに部活に
くるな!』とか『男子が女子陸上部にくるな!!』なんて書かれた紙が、勉強道具の代わりに入っていたり
……今日だって、部室に戻ると制服が墨汁で汚されていたり……んっぐ! ひっぐ……」

 衛の話を聞くと、いじめにしては余りにも酷過ぎるやり方だ……。これじゃあ衛も嫌になるな…。

 ぼろぼろと涙を流しながら泣き崩れる衛。そんな顔を見たオレは、思わず背中から彼女を抱きしめた。

「あにぃ……?」

「衛……泣くんだったら思いっきり泣くんだ。今だったら雨の音に紛れて聞こえないから…な」

 オレのその一言が効いたのか、衛はオレの方に振り返ると胸元にしがみついて思いっきり泣いた。
 雨の音に紛れるようにして、泣いて 泣いて 泣いて 泣いて 泣いて 泣いて 泣いて泣いて泣いてないてないてないてナイテナイテナイテナイテナイテナイテナイテ……。

   ……気がつくと、時計の短針は10時を指していた。

「衛、もう遅いから今夜はオレのところで寝るか?」

 今のご時世で女の子の夜の一人歩きは、はっきり言って腹を空かせた猛獣の群れにほっぽり出される
羊以上に危険この上ない。下手をすると、(自称)無敵のオレが護衛についたとしても、一寸した油断で
衛が危険に晒される可能性は否めない。それならば、少なくても泥棒やミサイルが無い限り安全とも
言えるここに泊めた方が良いだろう。
「うん……」

 少し船をこぎながらも、頷く衛。ま、さっきまで思い切り泣いて少し疲れが出ているんだろう。

「それじゃあ連絡するぞ……衛は早くベッドの方に行ってくれ」

   そう告げた後、オレは実家――オレのいるここより駅一つ半くらい離れた場所に建っている――に連絡を入れる。

『……双刃(ともは)ですが…』

「あぁ……その声は千影か、輝晃だ。親父か義母(かあ)さんいるかい?」

『兄くん…両方とも仕事で忙しいそうだ。そういえば衛くんはそっちにいるのかね?』

「あぁ、こっちにいる。それでみんなに伝えてくれないか。今夜は衛はこっちに泊めるから……って」

『わかったよ……皆(みな)にそのことを連絡すればいいんだね。それはそうと、兄くんだからこそ
信じてはいるけれど……』

「何だよ……千影」

『兄くんには私がいるのだから衛くんの寝込みを襲わないように……』

「誰が襲うか!」

 千影のいきなりの一言に、ついオレは大声を上げてしまうのだった。
 そしてオレは衛の方を見て、彼女が起き上がっていない事を確認する。

「兎に角だ…それじゃあ頼むぞ。千影……おやすみ」

『お休み…兄くん』

「ああ……」

 これで咲耶たちに無駄な捜索をさせずにすむな……。

  ――ザー……――

 更に激しくなる雨の中、衛をベッドに寝かせてオレは床で寝ていた(いくら妹でも、床に寝かせるほど
オレは鬼畜じゃない)。そんな中、オレは何時の間にか目が冴えてしまっていた。

「……衛、おきてるか?」

 ……返事の変わりに、規則正しい寝息が聞こえるだけだ。そっちの方が都合がいいな…そんな事を思いながらオレは話を続ける。

「何時までも一人で泣かないでくれ……。キミの他にも咲耶や千影、鈴凛や四葉……、そして余り頼りに
ならないけれどもオレがいるんだから、一人で悩み抱えたりしないでさ……誰かを頼りにしてもいいんじゃ
ないか……? オレも、衛に自分の悩み聞いてもらって……凄く、嬉しかったから……それじゃあ、改めて
お休み……。衛、オレは何時までもキミの味方だからな」

 ……ふぅ。一寸ばかし…オレらしくねぇな。

 雨の音が五月蝿くてかなわないけれど、オレはとりあえず目を閉じて明日に備えた。

――さー……――

「…にぃ……あにぃ…起きてよ…あにぃ」

 雨の音が優しくなっていた時に、オレは寝付いていた様だ。そんな中で、衛の声が聞こえた。

「ん……後五分…」

 何時もの様に寝ぼけるオレを、衛は一所懸命揺り動かしてオレを起こす。

「『後五分』じゃないって! 今8時半だよ!」

「はちじはん……て、8時半!?」

 衛の『八時半』の一言でオレは目が覚めた。

「確か今日の授業は三限目に数学じゃねーか……」

「あにぃ、今日は土曜日で休みだよ」

「え゛?」

 衛のその一言を聞いて、目が点になるオレ。

「じゃあ、何で起こしたんだ?」

「実はいうと、ボクの方で用があるんだ……これから学校に行って先生に先輩たちの事で言っておきたいから、
それで…できればあにぃにも付き合ってもらいたいんだけど……だめ?」

 何だ、そういうことか……そう心の中で思いながら、その答えを衛に伝えた。

「わーったよ。その代り、何かいやな事があったら真っ先にオレに相談してくれよ」

「うん!」

 そのときの衛の表情(かお)は、久々の晴れを思わせる明るい笑顔だった。

  〜END〜

  〜あとがき〜

 ’03年度の小林由美子ちゃんの誕生日記念のSSなのに、何ともはや一寸痛い感じのSSに
なってまったことをお許しを。
 ……そうそう、このSSを読むときにはB'zの『泣いて 泣いて 泣きやんだら』(『SURVIVE』収録)
小森まなみ嬢の『happy happy birthday』(ミニアルバム『Tiny angel』収録)そして
RYTHEMの『ハルモニア』(NARUTO第二のED)を聞きながら読むといい感じかも  PS:『Sette Porte』に掲載された当時のそれとは一部テキストを変えました(ほんの少しだけど)。

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