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 真夜中の格納庫、冷たい水銀灯の光の下、数人の男女が話をしている。
 白髪の、しかしがっしりした体格の男が話を始めた途端に、赤い瞳の青年がいきなり飛び掛る。

 青年・・レイ=グレッグのこぶしが白髪の男、トライ=アバロンにヒットする。

 ・・・アレは痛い・・・

「何故、すべてを知っていたのに俺達に連絡しなかったんだ・・・」
 血を吐くような叫び。
 何とか踏みとどまったアバロンへ2撃目を放とうとするレイ・・・
「それはやりすぎだ・・・レイ」
 その肩を理知的な表情の眼鏡の男が抑える。
「お前の気持ちは分かるがな・・・まだ話は全部終わってない」
 心の中の葛藤を抑える表情も見せず、セレス=アルトワーズはアバロンに続きを促そうとした。

 ・・・相変わらず冷静だな、セレス。
お前が人の心の機微をうまく捉えられるようになればいい将軍になれるな・・・


 アバロンが説明を続けはじめた。
「あのときのワシの任務はウルトラ・・・デストロイヤー師団に近づく敵を効率よく迎撃すること。 ワシが援軍を出さなかったのは、ヤツの腕はワシが誰より知っているからだ。」

「・・・どうして・・・私たちに指令してくれなかったのですか?貴方と貴方の愛機ゴルヘックスなら、あの時上手く予備部隊私たちを展開できたはず・・・」
 蒼白な顔のシシリー=ヴォルタ・・・レオマスターの紅一点が、震える唇から言葉をつむいだ。
 ・・・慕ってたか・・・お前は一人立ちできるくらい強いはずなんだが・・・
「そうだよ・・予備隊オレらだって・・・」
 ウィナー=キッド。レオマスターに匹敵する高速ゾイドの専門家。
喧嘩っ早さではレイに負けないこいつもレイの気迫に飲まれたのか、それともシシリーの感情が移ったのか奇妙なほどに静かに呟く。

 ・・・あの時、お前たちが予備隊にとどめ置かれたのは指揮官がその腕を見込んでいるからだ・・・オレみたいに暴走することも無いしな。

ストームソーダーうちの子のスピードなら哨戒しながらでも援護できたわ・・・あの時、帝国空軍は一時的に壊滅してた筈よ」
 冷静に指摘するマミ=ブリジット。

 ・・・そうか・・空軍最強の天使はあのときの戦況を天空から支配していたんだな。

 皆が思いを口にし、一時的に沈黙が場を支配した。永遠と思えるような数秒の後、責められていた男は、重い口を三度開いた。
「知っていたさ、お前たちがそのとき敵と遭遇していなかったのも、ワシの一言でアイツの元に誰かを派遣できるのも・・・」
 トライ=アバロンは地面を、格納庫の硬いコンクリートの床に何か救いを求めるように眺めながら・・・話すことで誰かの魂を救うかのごとく話を続けた。

「じゃあ、何故だ?」
 レイがすばやく・・しかし重い疑問を発した。

 ・・・いい反応だ。お前を見込んだオレは間違ってなかったな。

「簡単なことだ。アイツがワシに頼んだんだ、あの赤い魔装竜・・・ジェノブレイカーと決着ケリがつけたい。誰にも邪魔をされずに・・・」
 淡々としたアバロンの台詞は真夜中の格納庫の冷たいコンクリートの床に響いていった。
「アイツはそういっていた・・・ライガーの中にある何か、そうパイロットの魂と同調する何かが求めているのだと・・・」
 誰も身じろぎもしない・・・ただ、アバロンの言葉が終われば石化した体が治るかのように・・・静かに聞いていた。
「お前たちには・・・分からないかな?終生燃え尽きることの無いゾイド乗りの精神こころが相手のパイロットと呼び合う・・・そういう感覚が」

「・・・そんなことで・・・」

 ・・・シシリーか・・・お前には分からないかもな・・・・

「オレ・・分かるような気ががする」
 キッドの言葉を聞いて女性陣が彼を睨む。

「そんな事、そう。ソンナコトだ。」
 アバロンが何かを伝えようと顔をあげた。深い瞳の奥には何か感情が見え隠れする。
「男の浪漫・・・アイツならそう片付けるか、笑ってごまかすだろう。」
「浪漫?」
 マミが信じられないような顔をしてアバロンに振り向いた。
「そう・・・男ってヤツはその心を守るために、生きるためにプライドとか浪漫というやつがいるんだ。こんな時代ならなおさらな」
「プライド・・・」
 シシリーも信じられないらしい。

「わからんか?・・・ええい、もっと分かりやすい言葉をワシの古女房が言っとったな・・・『戦争馬鹿の男どもの自己防衛手段。母親から離れることで失った何かを、恋人が埋める何かを 持たないものの自己防衛の手段』とな」
 アバロンは自棄になったように説明する。

 ・・・なんだ、お前の古女房も文句ばかりでなくて、たまには良い事を言うんだな。


「これくらいに・・しませんか? 一周忌の式典の・・・後・・ですから・・・」
 その場の誰もが心の中で何かを弄び・・・一言も発しなくなってしばらくした後、シニアン=レイン・・・冷静さでは誰の追随も許さない・・・が初めて口を開いた。
「そう・・だな、この話題は今後、公にしないこと。いいですね」
 その言葉を待っていたように・・・レイが感謝の気持ちとばかりに片手をシニアンに挙げて、立ち去ろうする。


 そして・・・皆がその場から立ち去ったあと、一人残ったシニアンがこっちを向いて完璧な敬礼をし、立ち去っていった。

 「かなわんな・・・知っておったか・・・」

 オレ・・・共和国陸軍少佐アーサー=ボーグマンはこっちに一年ぶりに帰ってきた。
何も迷ったんじゃない。一年に一度この世に帰るのもあいつらが心配だからさ。それに・・・戦場ここはオレの故郷だからな・・・。

 誰もいない格納庫に佇むオレを、ゾイドたちが無言で見下ろしていた。

−Fin−





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