青い鳥
【第10回】
「へえ……。じゃあ、相当強ぇな。そいつ。」
飛影のところへ向かう途中、
桑原とぼたんは、暗黒鏡を盗んだ犯人について
幽助に話した。
その犯人は警備員に顔も見られず、
さらに警備員に怪我をさせることなく、盗み出した。
幽助は言った。
「オレには、真似できねーな。」
「え!?何ィ!!?オメーできねーのかよ?」
桑原が驚いたように言う。
桑原としては、当然幽助はできるものと思っていたからである。
桑原のその言葉に、少々ムッとする幽助だったが、
「”顔も見られず”、”怪我もさせず”を両方クリアするのが
無理だって言ってんだよ。
”顔を見れらず”をクリアしようと思ったら、殴って寝かせなきゃならねーし、
”怪我をさせず”をクリアしようと思ったら、顔を見られる事は覚悟しなきゃな。
――だから、相当強いって言ってんだよ。」
と幽助は付け足した。
桑原とぼたんは、幽助のセリフに何も言えなくなってしまった。
犯人は、この幽助に『強い』と言わせるほどの者なんだ。
気を引き締めなければ……。
桑原とぼたんは、幽助に会ったことで取れてしまった緊張を
再び、身にまとった。
「どんな奴だろうなっ♪」
幽助だけが、妙に嬉しそうだった。
ここは、魔界の入り口の近くの森の中。
ここなら、ひと気もない。
蔵馬は、薄暗い森の中で鏡を手に持ち、
しばしの時間突っ立っていた。
聞こえていた。オレの名を呼ぶ幽助の声。
思わず振り返ってしまいそうになった。
振り返りそうになるのを必死でこらえた。
もう、あの声で”蔵馬”と呼ばれる事は二度とないのだ。
思ってはいけない。
君にもう一度”蔵馬”と呼ばれたいと。
思ってはいけない。
あの人にもう一度”秀一”と呼ばれたいと。
人間界に住みついて、母さんに自分が妖怪だと気付かれては
ならなかった。
だから、魔界に行った。
でも、魔界に行っても、生きている心地がしなかった。
それは、オレが南野秀一でいたかったから。
しかし、だからといって、人間界に帰るわけにはいかなかった。
どうしたらいいのか、分からなかった。
この森は、たとえ昼間でも暗く、
あまり人が出入りするような森ではない。
木と木の間から月の明かりがこぼれる。
蔵馬は鏡を地面に置き、かがみこむ。
答えを求め、暗黒鏡を持ち、ここへ来た。
もう迷ってはいけない。
一生かけても分からない答え。
ならば、オレの命のかけて答えを手に入れよう……。
−−人間と妖怪は共存できるのか・・・・・?!−−
その答えは・・・・・・・?
さあ、願いをかなえようか……。
もうすぐ蔵馬が暗黒鏡を使う。
もうすぐあいつらが来る……
「飛影―――――!!」
自分を呼ぶ声がした。
「やっと来たか。」
「飛影、久しぶりだねぇ。でさあ、早速で悪いんだけど
蔵馬を探してるんだ。邪眼で探してくれないかい?!」
かなりぼたんは慌てている。
飛影でなくてもこの頼み方は少しムッとするところがある。
「ふん……そんなことする必要はない。」
ぼたん達のほうには背をむけ
飛影は魔界全土を見渡す。
「そんな事言わずにさぁ。頼むよぉ〜、飛影……。」
ぼたんはもう今にも泣きそうだ。
「何の用だ?」
「え?」
「蔵馬に何の用があると聞いている。」
「え?ああ。……暗黒鏡が盗まれたんだよ。霊界から。
でも、何の手がかりもなくって……。
蔵馬ならいい案出してくれるかなって。
それにそれだけじゃないんだよ。
……信じられないんだけど……、
幽助、蔵馬に記憶を消されたみたいなんだよ。
もう、何がなんだか分からないんだよぉ。」
オレも何がなんだか分かんねー……。
幽助はぼたんのセリフに”うんうん”と頷きながら思った。
記憶を消されたという自覚はあるが
どうして記憶を消されたのか……。
全く分からないし、どうしたら記憶が戻るのかも分からない。
今分かっていることは暗黒鏡が盗まれたっていうことだけである。
しかし、犯人だって誰か分からない。
見事に分からない事だらけなのであった。
「なぁ、飛影、オレからも頼むぜ。
邪眼で蔵馬をみつけてくれねーか?」
桑原も飛影に頼みだす。(ちょっと珍しい)
しばらく飛影は沈黙を守っていた。
「……暗黒鏡は蔵馬が持っている……。」
沈黙を破った言葉がそれだった。
『なっ!!』
桑原とぼたんの声が重なる。
盗まれた暗黒鏡を持っているのも蔵馬。
幽助の記憶を消したのも蔵馬。
桑原は再び、幽助との会話を思い出す。
”蔵馬が・・・人間界の暮らしやめて
魔界に行くんだと。
んで、南野秀一に関わった人の記憶を消したんだって。
みんな消したんだってさ、母親さえからも・・・・・。”
一体一人で何やってやがるんだ?!蔵馬!!
バカ野郎……!!!!
「じゃあ、暗黒鏡を盗んだのは、そのクラマって奴か?」
幽助はさらっと言う。
そう考えるのが普通である。
しかし……、信じたくないのだ。桑原もぼたんも。
「以前、盗んだのもクラマって奴なんだろう?
だったらさ、霊界のどこに暗黒鏡がおいてあるか、
あらかじめ分かってるわけだしさ。
道理で警備員に顔も見られず、怪我もさせず、盗み出せるわけだよ。」
幽助の言葉に、ある可能性を思いつき、ハッとする桑原。
「ちょっと待て、浦飯!お前、さっき
”顔も見られず”、”怪我もさせず”を両方クリアするのは
無理だって言ってたよな?」
「ああ。だって、オレ、暗黒鏡がどこにあるかなんて知らねーし。
でも、どこにあるか分かってたら話は別だぜ。
できるかどうか微妙だけど、できねーことねーな。
まあ、警備員のいる位置が把握できれば、楽勝だけどな。」
――警備員のいる位置が把握できれば、楽勝……。
この言葉にさすがのぼたんもハッとする。
いるじゃないか。
以前、三大秘宝を盗み出し、あらかじめ暗黒鏡の置いてある場所を知っている人物。
さらに警備員の位置を遠くから把握できる能力を持つ人物。
桑原とぼたんは、目を大きく開けながら
2人同時にその人物を見た。
「フン。ようやく気付いたようだな。」
飛影の声が響いた。
不敵に笑みを浮かべながら、飛影は言った。
「暗黒鏡を盗んだのはオレだ。」
【第11回】
―――暗黒鏡を盗んだのは飛影?!
これには、今まで話についていけなかった幽助も驚いた。
一体何故?!
「一体何の目的で暗黒鏡を盗んだんだい?!
だいたい、せっかく盗んだものを
蔵馬に渡すってどういうことなんだよぉ!!」
さっきまで泣きそうだったぼたんだが、今は怒っている。
「冥土の土産だ。そう言って蔵馬に渡した。」
飛影は短く答える。
その言葉を聞いて桑原も黙ってはいなかった。
「冥土の土産だと?!どういう意味だ?
オレは知ってるだろうが頭がワリ―んだ。
もっと分かりやすく説明してくれね―か?」
セリフ自体は下手に出ている。
それだけ怒っているということだ。
爆発寸前なのである。
爆発のスイッチは次の言葉だった。
「”早く死ね”ということだ。蔵馬はすぐ理解したぜ。」
ガッ!!!
桑原は飛影の服をつかみあげる!!
「どういうつもりだ!!どういうつもりで蔵馬にそんな事言ったんだ?!」
飛影は答えない。
「オレはなぁ、直接蔵馬から聞いたわけじゃねーがなぁ。
蔵馬は悩んでたんだろう?迷っていたんだろう?
どんどん妖孤化してきて、だんだん人間界にいちゃいけね―って
思えてきて……。
自分を追い詰めてたかもしれねー。
それをなんでとどめをさすような言い方するんだ!?
答えろ!!飛影!!!」
それでも、飛影は答えない。
―――ここ数年は今までで一番幸せと思える日々だった。
―――オレは母さんと暮らしたい。
―――もう二度とこんな日々は戻ってこない。
―――危険すぎる。
ふっと、頭の中に声が響いた。
以前にどこかで聞いたことのある声。
――誰だ?
幽助は、桑原と飛影のやり取りを見ながら、
必死に思い出そうとした。
しかし、 思い出せそうで思い出せない。
でも、幽助は分かった。
顔も思い出せない、頭の中に響く声の持ち主。
――お前が”クラマ”だな?
「何で黙ってんだ?!お前だって分かってたんだろう?
どうして蔵馬を助けてやらね―んだ!!!!」
飛影は桑原の手を払いのけ、”フン”と言って間を取った。
それから桑原の問いに初めて答えを返した。
「オレは、奴(蔵馬)を助けてやった。」
なっ?!!
桑原とぼたんは声が出なかった。
「オレは、オレのできることで、今奴が一番望むものをくれてやった。」
ぼたんが声を震わせながら、小さな声で言う。
「じゃ、じゃあ、なんだい?蔵馬は死にたがってたのかい?」
「いいや!そんなことねぇ!!
蔵馬は人間界で暮らしたがっていた!!
死を望んでいたわけじゃねー!!」
ぼたんの問いに答えたのは、桑原だった。
「何が”蔵馬の望むものをくれてやった”だ!
てめーは蔵馬を死に急がせただけじゃね―か!!!」
桑原は目をつり上げ、肩も上げ、
怒鳴るように、大声で叫ぶように言う。
それに対し、静かに落ち着いた様子で飛影が言った。
「じゃあ、貴様は蔵馬に何が出来る?」
飛影のその言葉に驚く桑原とぼたん。
何故なら、言葉につまってしまったからだ。
――オレたちは蔵馬に一体何をしてやれるのだろうか?
【第12回】
突然の飛影からの問い。
戸惑いは隠せなかった。
「な、何って。そりゃあ、オレは何も出来ね―けど……。」
沈黙が訪れた。
風が吹いた。
少々強い風だった。
風がおさまり、桑原が声を抑えて言う。
「でも…何も出来なくても、蔵馬の話くれーは聞いてやりてぇ。
一緒に悩んでやりてぇ。」
自分は何もできないということを認める勇気、
それでも、何かしてやりたいと思う強い意志。
桑原はそれらをこめて、次の言葉を言った。
「オレは蔵馬に生きてほしい!!」
桑原はまっすぐに飛影を見た。
飛影もまっすぐ桑原を見る。
飛影も気付いている。
桑原の意志の強さを。
これから先、何を言っても桑原は蔵馬を助けに行くと。
しかし、飛影は”あえて”言った。
「ふん。話にならんな。」
この飛影の言葉で、また、桑原が怒り出す。
「なんだとぉおおぉ!!!」
「話を聞いたくらいで奴の望みがかなうと思うのか?
貴様なんぞが一緒に悩んだところで、
いい考えが浮かぶのか?
さっき、貴様が言っていたな。
蔵馬は人間界での暮らしを望んでいると。
ふん、そのとおりだ。
だが、蔵馬は言っていた。
その望みは”決して叶わない”と。」
飛影の言いたいことは分かる。
蔵馬は、望みは叶わないと”断言”しているのだ。
今の蔵馬には、絶望しか見えていない。
「だからって、死に追いやることはねーだろぉ!!!?
生きていれば……」
「生きていればなんだ?生きていれば望みが叶うのか?」
飛影が桑原の言葉をさえぎって尋ねる。
そんなわけない。
生きているだけで望みが叶ってたまるものか!
生きていたって、どんなに望んだって、望みが叶う事は
少ない。
本当に少ない。
しかし…
「でも!!たとえ望みは叶わなくても、生きていれば良いこともある!
死んでしまったら、それで終わりだろうが!!
望みだって叶う確率が0になっちまう!
生きていれば、叶う確率が限りなく0に近くても
決して0にはならねー!!」
生きてみないと望みは絶対に叶わない。
桑原は本心からそう思う。
それは、飛影にも通じている。
「貴様は、魔界での蔵馬は見ていないからな。」
ポツリと飛影はそう言った。
「抜け殻のようだったぜ。」
フンと笑いながら言う。
「奴(蔵馬)は既に望みは叶わないと断言してるんだぜ?
望みはあるのに決して叶うことはない。
やりたいことはあるのに出来ない。
――オレたち(妖怪)は寿命の短い人間と違って
やりたいこと(欲望)がなくなったら、生きていけない。
寿命が長いからな。
人間の考えはオレたちには通用しない!」
―――生きることが正義、生きることが正しいこと、こういう考えは人間だけだ。
―――妖怪にとっては自分のしたいことがなくなったら死と大差ないんですよ。
また、幽助の頭の中に声が聞こえる。
でも、どうしても思い出せない。
ただ、幽助もだんだん分かってきた。
”クラマ”という奴は、自分と同じなのだ。
人間なのか妖怪なのかはっきりしない。
だから、悩んでしまう。
人間界で暮らしてて、本当にいいのだろうかと。
大切な人がいるから。
悲しませたくないから。
人間界から出て行ったほうが良いのではないかと。
幽助はずっと沈黙を守ってる。
時折、頭の中で声がするその声の主を
――”クラマ”を――思い出そうとしている。
失われた記憶。
どうしたら、元に戻るのだろう?
でも、記憶を消せても”想い”までは消せない。
”クラマ”を思い出そうとすると何故だか悔しい想いが
よみがえる。
この悔しさ。
一体何がこんなに悔しかったというのだろうか?
「なんだよ、それ。寿命が長い短いなんて関係あるか!
生きるんだ!!とにかく生きてみるんだ!!
先のことなんて誰にもわかんね―んだから。
妖怪だって先の事はわかんねーだろう?
今は望みは絶対に叶わないと思い込んでいたとしても
生きていれば、その思い込みをくつがえすような出来事が起こるかもしれねー!
望みが叶う叶わないなんて生きてみなきゃ分からね―だろうが!!」
桑原はさっきから、怒鳴り続けている。
桑原も分かっている。
寿命の長い短いは関係ないと言ったが
やはり、寿命の長い短いで考え方も違ってくるだろうと。
でも、それでも……
自ら命を捨てていいものなのか?
―――そんなことあってたまるか!!!
「……それが人間の考え方だと言っている。
貴様はまだ20年も生きてないんだろう?
蔵馬はもう何千年と生きている。
分かるか?桁が違うんだ。
何千年だぞ。
生に執着がなくなるのは当然だろう?
ただ、今まではやりたいこと(欲望)があったから
そのために生きてきたんだ。
今、蔵馬のやりたい事は、南野秀一として人間界で暮らすこと。
そのやりたいことが出来なくなった今、
”どのようにして死ぬか”を考えることになる。」
――あ……。
幽助は、今の飛影のセリフを聞いたことがあった。
全く同じ言い方ではなかったけれど。
そう、確かに言った。
”クラマ”が言った。
―――いかにして死ぬかが重要になるんですよ。
幽助は思った。
”クラマ”と飛影って、同じような事を言ってる。
でも、気のせいだろうか?
同じ言葉を言っていても、その言葉の”意味”が違う。
飛影はなんとなくだけど、本当になんとなくだけど
『本当にやりたいことがなければ死ね。
でも、やりたいことがあるなら迷わずとっととやれ。』
そんな風に言ってるような気がする。
飛影は、前半しか(『本当にやりたいことがなければ死ね。』)言葉に出さないから
すごく分かりにくいけれど。
でも、本当に死ねと思っているのなら、
飛影の性格上もうとっくに”クラマ”を切り倒してるはずだ。
何故、わざわざ暗黒鏡を盗んで”クラマ”に渡した?
何故、そんな面倒なことするんだ?
幽助は、ずっと聞き手にまわってたからだろうか、
飛影の本当の言葉の意味が分かったような気がした。
”クラマ”に対し、飛影は言っていたのだ。
―――生きろ―――
と……。
【第13回】
「言っておくが、オレは暗黒鏡を蔵馬に渡しただけだ。
あいつ(蔵馬)何かをずいぶん知りたがっていたからな。」
飛影は、その『何か』を知っていた。
また、飛影がその『何か』を知っていると
言葉の調子から桑原たちも察する事ができた。
「なんだよ、それは?」
桑原が尋ねる。
「フン、くだらんことだ。」
ぼかした答え方をする飛影。
このことについては、桑原も深追いはしなかった。
飛影がそう言う以上、どんなに問い詰めても教えてはくれないと
分かっていたからだ。
それに重要な事ではないからだ。蔵馬が何を知りたいかなんて。
今は、蔵馬の生死が関わっている時。
蔵馬を死なせないことが何よりも最優先なのだ。
「つまり、生きるか死ぬかを決めるのは蔵馬だけだ。
奴自身の問題だ。
オレは奴の決めたことをわざわざ邪魔しにいくつもりはない。」
飛影が淡々と言う。
その後に続く沈黙。
桑原は、今までの飛影の話を振り返る。
冷静になろうと心掛けたのだ。
飛影の話は分かるような分からないような感じだった。
飛影の話をよく思い出してみると
飛影はすごく冷たい事を言っているような気がしたが、
すごく蔵馬のことを理解してるような気もしてきた。
そして、ふと気が付いた。
自分は、今回の件で蔵馬には一度も会っていない。
蔵馬から何も聞かされていない。
間接的に聞いただけだ。
自分は蔵馬の何を理解しているのだろう?
蔵馬に会わず、
蔵馬から話を聞かず、
魔界での蔵馬の様子も見ず。
それで蔵馬の何を理解するのだろう?
ただ単に幽助から話を聞き、蔵馬の気持ちを自分なりに想像しただけだ。
幽助が記憶を消された以上、蔵馬を一番理解しているのは
飛影だけじゃないだろうか?
「ただ、オレは、あんな顔で生きるくらいなら、死んだ方が
マシだと思うがな。」
ぼそっと飛影がそう言った。
あんな顔ってどんな顔?
知らない。オレは知らない。
だって、蔵馬に会ってないのだから。
でも、オレは死んだ方がマシだとは思わない。
オレは蔵馬のこと全然理解してないかもしれないけれど
死んでほしくないんだ。
先ほどは、飛影の言い分は一切聞かなかった。
飛影は間違っていると思っていた。いや、思うようにしていた。
それで「蔵馬に生きてほしい」と言った。
「何が何でも蔵馬を助ける」と決意した。
今は違う。
飛影の言い分は受け入れた。
蔵馬のことを理解していないのは飛影ではなく
むしろ、自分の方だろう。
飛影の言い分について先ほどと考え方がガラリと変わった。
しかし、決意は変わらない。
助けたい、蔵馬を。
生きてほしい……!!!
「頼む!飛影!!
蔵馬の居場所を教えてくれ。」
桑原が真剣に飛影に頼み込む。
オレは何もできない。
オレが蔵馬の話を聞いたって、蔵馬と一緒に悩んだって
問題は解決はしないだろう。
飛影の言うとおりだ。
オレは何も分かっちゃいない。
蔵馬について何も理解していない。
飛影のように蔵馬と一緒に魔界にいたわけでもない。
幽助のように蔵馬と同じ立場に立ったわけでもない。
でも、何もしないのは嫌だ。
自分の仲間が死ぬかもしれないというときに
何もできないからといって
何も分かっていないからといって
何もしないのは、絶対に嫌だ!!
何もせずに「何もできないから」と言い訳したくない!!
できる、できないなんか関係ない!
――するかしないかだ!!!
飛影も桑原がそう言うと思っていたのだろう。
素直に蔵馬の居場所を言った。
「魔界の穴の近くの森の中だ。」
「サンキュー、飛影!!」
桑原は、飛影に軽く礼を言い、
すぐに人間界の方へと走って行った。
「あっ。え?ちょっと待っておくれよ!」
ぼたんもあわてて桑原の後に続いて走って行った。
桑原とぼたんの姿が見えなくなった後、
「貴様は行かんのか?」
飛影が幽助に尋ねた。
「……”クラマ”って奴は、助かんのか?」
飛影の質問に答えず、逆に幽助が飛影に質問する。
「……いいや。桑原が蔵馬の所に着く頃には
もう蔵馬は暗黒鏡を使って死んでいる。」
幽助は、(やっぱり!!)と思った。
幽助は妙な質問をしたのだ。
”クラマって奴は、助かんのか?”
そんなこと飛影が知ってるわけないじゃないか。
――普通なら……。
しかし、幽助は思った。
もしかしたら『答え』が返ってくるかもしれない。
返事ではなく、断言した『答え』が。
そして、幽助の思惑通り、”断言した『答え』”が返ってきた。
「…………なあ、飛影?
お前、なんか隠してね―か?」
飛影に会った時から妙だなと思うことが何点かあった。
「どうしてそう思う?」
飛影が面白そうに尋ねる。
「どうして”クラマ”の居場所知ってんだ?
今、邪眼は使ってないのに。
それにどうして
”桑原が蔵馬の所に着く頃には
もう蔵馬は暗黒鏡を使って死んでいる”
って言い切れるんだ?」
わざわざ”クラマ”が
”魔界の穴の近く森で暗黒鏡を使います”
なんて飛影に言って行くわけがない。
まして、”クラマ”がいつ暗黒鏡を使うかなんて
分かるはずがないのだ。
もしかしたら、暗黒鏡を使うことに躊躇していて、
桑原が行くまで暗黒鏡を使わないかもしれないのだ。
それに……
「オレたちが来た時、オメー”やっと来たか”って
言ったよな?
まるでオレたちを待ってたかのように。
なんでオレたちが来るの分かったんだ?」
「ククク……。
記憶を消されて、ちょっと頭が回るようになったじゃないか。」
ムカッ!!
でも、実際そのとおりなのだ。
言い返せないのがちょっと腹の立つ。
”クラマ”の記憶を消されたからだと思う。
いくら”クラマ”が自分の仲間だと教えられても
正直”クラマ”が死のうと生きようと自分には関係ない、
と思ってしまうのだ。
しかし、だからこそ、桑原、ぼたんより冷静でいられた。
飛影は”クラマ”に無言で「生きろ」と言っている。
しかし、何故暗黒鏡なんだ?
暗黒鏡を使わせたら、結果的に死ぬことになるじゃないか。
暗黒鏡を渡すということは「死ね」と言っている事にならないのか?
でも、飛影は「生きろ」と言っている。
この矛盾。
幽助はどう考えても分からなかった。
でも、飛影は”クラマ”に「死ね」と言うために
暗黒鏡を渡したわけじゃないと思う。
暗黒鏡を霊界から盗んだ理由は……。
「それでさ、なんとなくなんだけど。
なんかさ……これから先の事も分かってんじゃね―のか?
飛影。」
”先の事も分かっている”と暗黒鏡。
これらが関係してくるんじゃないだろうか?
【第14回】
魔界全土の見える丘。
ここには、いつも強い風が吹いている。
その風にあたりながら、髪をなびかせながら、
答えのない問題を延々と考え込んでいる
死人同然の生き物がいつもそこにはいた。
飛影は、その死人に近づいていった。
――借りは返してやるぜ。蔵馬…。
「おい、蔵馬。」
飛影の言葉に蔵馬は振り返った。
「ああ、飛影。どうしたんですか?」
飛影は、不敵な笑みを浮かべながら、言った。
「貴様に渡したい物があってな。」
「……渡したい物……?」
「ああ。冥土の土産にな。」
飛影はそう言って、その”土産”を蔵馬に見せた。
飛影が手に持つものは
――暗黒鏡!?
「飛影!!一体それは………!」
蔵馬は珍しく大きな声を出した。
「見て分からんか?暗黒鏡だ。」
飛影はそう言って蔵馬に暗黒鏡を放り渡す。
思わず受け取る蔵馬。
ほんの少しの沈黙の後、蔵馬が困ったように笑いながら言った。
「そんなにオレ変な顔してましたか?」
「フン…。」
飛影から不敵な笑みが消えた。
飛影は蔵馬の問いには答えなかった。
そのかわり、
「それはお前の好きに使え。
お前がこのままずるずる生きていたとしても
今貴様が知りたがっている答えは絶対に見つからない。」
「飛影……。」
「その鏡に貴様の知りたい答えとやらを聞いてみるがいい。
暗黒鏡を使ってお前がどうなろうとオレの知ったことではないからな。」
そう言って飛影は去って行った。
蔵馬はひとり鏡を見る。
(どうして飛影が知っているのだろう?)
飛影に言った覚えはない。
オレが”答えを知りたい”と。
一言も飛影には言っていない。
――貴様が知りたがっている答えは絶対に見つからない。
答えを教えてほしい…。
−−人間と妖怪は共存できるのか・・・・・?!−−
その答えは・・・・・・・?
『お前はまだ死に方を求める程強くない』
時雨との戦いから2週間が過ぎた。
怪我は完治した。
また強くなるため修行を始めた。しかし
――何のために?
何故強くなる必要がある?
首に下げた氷泪石2つがキラリと光る。
気が付いてしまった。
――もう自分には強くなる目的はないということに……。
生まれた時から生きる目的があった。
生きているうちに目的は変わっていったが、目的のために生きてきた。
目的を果たすには邪魔な奴らがたくさんいた。
強くなる必要があった。
そいつらを切り倒すため!!!
目的はもうない。
時雨戦の時思った。
こいつは対戦相手であるが別に邪魔な奴じゃない。
切り倒さなければならないなんてことはない。
生きるための目的はもうない。
いつ死んでもいいのだ。
しかし今回は生かされてしまった。
別に死にたかった訳ではない。
けれど何のために生きるのか?
「飛影…。」
飛影は無言で蔵馬の部屋に入る。(もちろん窓から(笑))
「どうしたんですか?わざわざここに来るなんて(ああっ!また土足で…;;)」
当たり前であるが飛影は用がない限り自分の方から寄ってこない。
蔵馬は
(薬草でも欲しいのかな?)
と思っていた。
そんな時何の前振りもなく飛影は蔵馬に向かって問う。
「貴様は何故そんなに長々と生き続けられるんだ?」
自分より遥かに長く生きている蔵馬。
こいつの生きる目的は一体何なんだ?!
何故人間に憑依してまで生きようとした?
飛影にはどうしても理解できなかった。
いきなり質問を受けた蔵馬は当然驚いた。
「長々って……。えっとー、寿命が長いからじゃないんですか?」
この蔵馬の答えは飛影をイラつかせた。
「寿命が長いくらい分かっている!!
人間に憑依した理由はなんだと聞いている!」
「死にたくなかったからです。」
「だから、何故死にたくなかったんだ!?」
「生きたかったからです。」
「じゃあ、何故貴様は生きたいと思ったんだ?」
「死にたくないからです。」
「…………」
「…………」
「……貴様……。ふざけてるだろう……。」
「すみません。」
蔵馬は笑いながら、飛影に謝った。
蔵馬は、途中から気付いたのだ。
飛影が一体何を知りたいのか。
飛影が一体何しに来たのか。
今度は蔵馬が静かに問う。
「生きる目的がなくなったんですか?」
飛影はその問いに答えなかった。
「雪菜ちゃんを見つけることが生きる目的だったんですか?」
再び蔵馬が質問する。
それでも飛影は答えなかった。
しばらくたって、飛影は、ボソッと言った。
「以前貴様に言ったな。強くなるには年中戦うのが
手っ取り早いと。」
「ええ。確か、貴方が”躯のところへ行く”と言った時に
そう言いましたね。」
飛影は、蔵馬から目線をそらし、言った。
「もうオレには強くなる目的はない…。」
【第15回】
一体何のために強くなるのか?
何の目的もないのに強くなってどうするのか?
強くなるために躯のところへ行ったというのに
よく考えれば、強くなる目的はもうとっくにないのだ。
生きる目的もまた同じ。
オレにはもうすることなどない。
もう何もないのだ。
蔵馬は少し考えた後
飛影にとって理解できないようなことを言う。
「そういった答えは難しいですが、すごく簡単でもあるのですよ?」
蔵馬の言葉に、飛影は顔をしかめた。
「…貴様の言うことは分からん。」
飛影は蔵馬の部屋を出ていこうとした。その時、蔵馬は言った。
「飛影……。幽助に聞いてみたらどうですか?」
飛影は意外そうな顔をし
「何故あいつに聞かねばならん?!」
「きっと貴方に教えてくれると思うのです。
何のために強くなるのか、という答えを。」
「あいつが答えを持ってるとは思えん!」
蔵馬は、少し笑い、
「そうですか?きっとあっさり解決すると思いますよ?」
「…フン、貴様は奴を買いかぶりすぎだな。」
そう言って飛影は出ていった。
しばらく、何も事が起こらなかった。
しかし、魔界に来てから一年が経とうとしていた時、
幽助が魔界トーナメントを開催した。
つくづく戦うのが好きな野郎だ―と思った。
ふと蔵馬の言ってたことを思い出す。
――幽助に聞いてみたらどうですか?
今まさにトーナメントが始まろうとしている。
すぐ近くに幽助も蔵馬もいる。
――何のために強くなるのか…。
ちょうどその時幽助が飛影の存在に気付いた。
「おっ!飛影!!」
嬉しそうに駆け寄ってくる。
幽助の声が聞こえたのか蔵馬も飛影に気付いた。
「飛影!幽助!」
「おう!蔵馬!なんだ。みんな近くにいたんじゃねーか。」
「そうみたいですね。」
「飛影!久々だな!おめーもだいぶ腕上げたみてーだなっ!」
飛影は答えない。
黙ったままである。
しかし、幽助は飛影のそんな態度は気にしない。
いつものことだと思っているからだ。
構わず話を続ける。
「抽選でお互い当たればいいんだけどな!
お前と対戦することになってもオレ負けねーからなっ!」
幽助は真っ直ぐ飛影を見て笑顔で言った。
飛影はそんな幽助を見ながら思った。
こいつは今、迷いなく”生きる”という道を前へ前へと進んで行っていると。
それに比べて、自分は前に進むどころか、進むべき道すらないように思えた。
こいつ(幽助)は何故強くなろうとする?
こいつ(幽助)は何故生きる?
飛影は、以前蔵馬に”何故生きるのか”という質問をした時ように
いきなり幽助に質問した。
「貴様は何故強くなろうとする?」
ボソッと独り言のように言う。
それを聞いた蔵馬は、困ったように笑った。
飛影はまだ答えを探し出せていないのだ。
(それにしても、飛影……。
何の前振りもなくそんな質問するのはどうかと……(苦笑))
蔵馬はそう思い、幽助の顔をちらりと見た。
案の定、幽助は突然飛影から奇妙な質問を受けポカーンとしている。
「一体何の目的があって強くなろうとするんだ!?」
さらに独り言のようにつぶやく飛影。
意味の分からない幽助は通訳してくれといわんばかりに蔵馬の方を見る。
幽助は
(飛影は一体どうしたんだ?)
と困った顔をしている。
蔵馬はそんな幽助と飛影を見ておかしくなってきた。
クスクスと笑いながら、幽助に優しく言った。
「飛影はね、今、悩みを抱えてるんですよ。」
そんな蔵馬の言葉に
「ええ!!飛影に悩み事なんかあんのか?!」
幽助は大声で驚く。
ちなみに失礼極まりない言葉ではあるが幽助本人に悪気はこれっぽっちもない。
「え?何?何?どんな悩みなんだよ♪」
すごく楽しそうに飛影に聞く幽助。
「幽助……。そんな他人の悩みを楽しそうに聞いちゃ駄目ですよ。」
とか言いつつ、楽しそうな蔵馬。
一方、飛影は、悩み事があると言われ、さらに、幽助、蔵馬に
妙に楽しそうにされ、ムカムカしてきていた。
なんとなくムキになり
「蔵馬!!オレは悩んでなんかおらん!!」
必死で、悩みがあることを否定する飛影。
飛影は、さらに言葉を続けた。
「下らん事言うと……。」
「殺すぞ?」
ニコニコ顔で言う蔵馬。
「…………。」
絶妙のタイミングで蔵馬に言い返された。
”下らん事を言うと殺すぞ”という自分のセリフを
見事、先に言われてしまった。
慌てて違うセリフを考える飛影。
「フ、フン!」
しかし、他に言葉が浮かばなかったらしい(笑)
蔵馬が話を続ける。
「とりあえず、飛影の質問に答えてあげてやってくれませんか?
その質問の答えによって、飛影の悩みが解決するかもしれないんです。
いきなりなので戸惑うと思うんですけど。」
「飛影の質問って……。」
「幽助はどうして強くなろうとするんですか?」
【あとがき】
第10回で暗黒鏡が盗んだ犯人が飛影と判明。
皆さんはとっくに飛影が暗黒鏡を盗んだのは気付いてたと思います。
では、何故盗んだのでしょうか?
それが分かるのはちょこっと先ですね。
第11回、飛影と桑原、あまりケンカになりませんでしたね……。
飛影は怒鳴ったりしませんし、口数少ないですからね……。
私にとっては、書きにくいキャラです。
幽助とぼたんの口喧嘩のようにはいきませんで…。
桑ちゃんが”ガ――ッ!!”と言っても飛影って反論してくれないんですもん。
さて、今回、桑原くんとぼたんは、結局は自分達は蔵馬に何もしてやれないと
気付いたのですが、
そういうものでしょう。
何もしてやれないというのが普通です。
蔵馬自身のことだから、蔵馬自身が何とかしなくちゃいけませんしね。
しかし、時には自分は何もしてないつもりでも、
相手にとってはすごく助かったりすることもあったりもするのです。
だから、自分は何もしてやれないといって、何もしないのではなく
自分は何もできないけど、でも!!何とかしてやりたい。
この”でも!!”という気持ちが大切ですよね♪
第12回と第13回にこの”でも!!”がちょこっとテーマに
なったりならなかったり……(笑)
第12回が飛影メインになってきましたね。
――というか、ぼたんちゃんすみません。今回出番なしです。
やはり、飛影も蔵馬のこと心配しています。
だから、しゃべるんです。
蔵馬のことどうでもいいと思っているのなら、飛影は桑原と口論(?)しません。
「フン、オレには関係ない」の一言で終わってるはずです。
う――ん、いい奴ですね、飛影。
第13回で何が書きたかったかというと
『何もせずに「何もできないから」と言い訳したくない!!
できる、できないなんか関係ない!
――するかしないかだ!!!』
です。
桑ちゃんのこういうところが格好良いですね。
逆に言い訳する人って格好悪いなぁと思うのです。
他のキャラもそうかもしれませんが、
特に桑ちゃんは絶対に言い訳しない典型タイプではなかろうかと私は思っています。
第14回何がビックリって、飛影と蔵馬しか出てないということでしょう(笑)
第14回〜第17回まで「飛影編」です。
なんだか、久々に暗くない蔵馬を書くことができました。
(そのかわり、飛影がちょっとお悩みモード。…すみません。)
vs時雨戦での飛影の気持ちは、私には分かりません。
――が、今回は「青い鳥」用の解釈で、ややこじつけもしております。
ご了承くださいm(_ _)m
第15回、なんだか、平和な内容になってきたような。
さて、何故、蔵馬は飛影に「幽助に聞け」と言ったのでしょうか?
これは第16回で分かる人には分かります。
はっきりとした理由はでてきませんけれど。
……分かってほしいです……。
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