青い鳥


【第31回(1)】 −−人間と妖怪は共存できるのか・・・・・?!−− その答えは・・・・・・・?  蔵馬は、分かった。 暗黒鏡の言っていた答えの意味が。  蔵馬は、暗黒鏡の出した答えを答えだとは思っていなかった。 何故なら、あまりにも「当たり前の答え」だったからだ。 そして、蔵馬は、その「当たり前」を分かっていなかったからだ。  しかし、蔵馬は、遠回りして、ようやく、「当たり前の答え」にたどり着いた。 −−人間と妖怪は共存できるのか・・・・・?!−− その答えは・・・・・・・?  ―――答えは、己の心の中にある。――― 「え?!」 「なっ?!」  ぼたんと桑原は、同時に声をあげた。 蔵馬が暗黒鏡へ願いを託した途端、目の前に信じられない光景が映ったからだ。 「……一体、どうなってんだ?これは……。」  桑原が、茫然と呟いた。 驚くのも無理はない。 目の前に、蔵馬と幽助がいるのだから。  蔵馬は、暗黒鏡を使って、過去に行ったはずなのに……。 幽助は、暗黒鏡を使って、死んでいたはずなのに……。 何故、2人とも自分の目の前に座っているんだ?!  桑原とぼたんは、じぃっと蔵馬と幽助を見た。  蔵馬と幽助はちょこんと座ったまま、目をパチパチさせている。 そして、蔵馬と幽助は、互いに目を合わせ、やはり目をパチパチさせる。 『あれ?』  蔵馬と幽助の声がハモった。  蔵馬と幽助は、一体自分の身に何が起きたのか理解できなかったし、 桑原とぼたんは、自分の目の前の光景(蔵馬と幽助がいること)にひたすら驚いていた。 そんな中、飛影だけが余裕の笑みを浮かべていた……。 「フン、これで終わりだ。どうやら上手くいったようだな。」  飛影は、不敵に笑いながら言った。 「え?一体どういうことだい?」 「こうなったのは、飛影の仕業だってことか?」  桑原とぼたんは飛影に質問を投げかける。 飛影は、不敵な笑みを崩さずまま、こう言った。 「今ごろ気付いたのか?この鈍感め。」 「鈍感って!!テメーなぁ!」 「そうだよ!こっちは、訳分からないよ!」  桑原とぼたんは、怒鳴り散らす。 「だいたい、テメー、陰でコソコソ何やってんだ?!  暗黒鏡を盗んだり、意味分からんことを言ったり……。  ……ん?」  桑原は、気付いた。   飛影は暗黒鏡を盗み出した。 この“信じられない状況(目の前に蔵馬と幽助がいること)”も飛影の仕業らしい……。 “信じられない状況”は、どんな手段を用いても、なり得なかった。 しかし、例外がある。 「飛影……、まさか、お前まで、暗黒鏡を使ったのか?」  この桑原の言葉に、ぼたんは、目と口を大きく開けた。 驚きのあまり、声が出なかったらしい。 「フン、そういうことだ。」  飛影は、桑原を見下すように答えた。 (実際は身長の関係で〜以下同文〜) 「え?ちょっと待てよ?じゃあ、お前も蔵馬みたいに時間差の方法を使ったのか?」 「そんな面倒なことはしない。オレは、“本来の暗黒鏡の使い方”をしたまでだ。」 「なんだよ?その“本来の暗黒鏡の使い方”って?ぼたん知ってるか?」  桑原の問いに、ぼたんは、思いっきり首を横に振り、 「いいや、あたしゃそんなの聞いたことないよ。」  そして、ぼたんは、飛影の言葉を待った。 本来の暗黒鏡の使い方ってどんなのだろう?と少しワクワクしながら。 しかし、ぼたんの期待は、はずれてしまう。 「フン、貴様らに教えるつもりはない。」  ぼたんは、ガックシと肩を落とした。 (そうだよねぇ。飛影が素直に教えてくれるはずないやねぇ。) 「でよぉ……。」  桑原は、蔵馬と幽助の方へ振り向き、 「オメーら……、えーと、なんつーか……無事か?」  “無事か?”という問いは、おかしい気もした。 目の前にいるのだから、無事ということは、分かりきっていた。 でも、なんとなく聞きたかったのである。 当人たちの口からハッキリと“無事だ”“大丈夫だ”と聞きたかったのかもしれない。  しかし、蔵馬と幽助は、飛影、桑原、ぼたんの会話から取り残され、 ずっとポカーンとしていた。 幽助はともかく蔵馬にしては珍しい。 「いや……無事も何も……。」 「一体何がどうなったのか?」  幽助と蔵馬が首を傾げながら、桑原に返事をした。 「オレ、えーとなんだっけ?あ、そうそう!  時空の波とかいうやつのせいで、過去に飛ばされたんだよ!」 「あ、幽助もやっぱり飛ばされてたんですね!オレも未来に飛ばされました。」 「なんだよ、蔵馬もかよ。  それでよ、過去に飛ばされて、なんとか戻る方法ないかなぁって思ってたら、ここに座ってた。」 「オレは……まぁ……気が付いたら、ここに座ってましたね……。」 「なんか、オレ、わけ分かんねぇ。」 「ええ、オレも全然分かりません。」  再度、蔵馬と幽助は、首を傾げた。 そんな蔵馬と幽助のやり取りを聞いていたぼたんが声を震わせながら言った。 「……幽助……。」 「ん?」 「記憶……。」 「んん?」  桑原も喜びを隠しきれず、大きな声で言った。 「浦飯テメー、記憶戻ってんじゃねーか!!」 「蔵馬を思い出したんだねぇ!!」  ぼたんは、嬉しさのあまり涙が出そうだった。 桑原とぼたんは、「ったくよぉ、心配させやがって」「でも良かったじゃないか」と口々に言った。 心底嬉しそうに笑い合った。  そんな中、幽助が一言。 「おお!そういえば、オレ記憶消されてたんだっけ?」  幽助のその言葉にズッコケそうになった桑原とぼたん。 桑原とぼたんは、睨むように幽助を見た。 (こいつはぁぁぁ〜!人に散々心配させておきながらぁ〜(怒))  怒りのオーラを感じたのか、さすがに幽助も2人が怒っていることに気が付いた。 慌てて幽助は、言い訳した。 「い、いや、だってよぉ。なんか色んな記憶があるだぜ。  蔵馬に記憶を消された記憶もあるし、記憶を消されてる間の記憶もあるし、  未来からやってきた蔵馬との会話も記憶あるし……。」 「幽助の記憶が戻ったのも、オレたちが現在に戻れたのも  全部、飛影が暗黒鏡を使ってくれたおかげなんですね。」  蔵馬は、飛影を見た。 飛影は、地面に転がっていた暗黒鏡を手に持ち、目線は鏡に向けたまま、 「フン、借りは返したぜ。」  ボソッと呟いた。 飛影の言葉を、蔵馬も幽助も聞き取れたが、一体どういう意味か分からず 再び、蔵馬と幽助は目をパチパチさせた。 「おい、蔵馬。飛影になんか貸しあったのか?」 「え?いいえ!貸しなんてなかったと思うんですけど……。  そういう幽助こそ……。」 「ええ?無ぇと思うんだけどなぁ。」  飛影は、目線を蔵馬に移した。 「全て丸く収まった。あとは、貴様が家に帰るだけだ。」  蔵馬は、ハッとした。 家に帰る……? でも、帰れるのか? (だって、母さんの記憶は現在では消えたままだ……。)  今更、蔵馬は後悔した。 蔵馬は思った。 ――帰れない……。  やっと自分の気持ちに気付いたのに、母さんの記憶が消えたままだったら、 帰れないじゃないか……。 自分が蒔いた種だ。 シカタガナイ……。 「フン、“全て丸く収まった”と言っただろう?」  蔵馬の心中を察してか、飛影はニヤリと笑いながら言った。 「え?それはどういう……。」 「お前は、ただ帰ればいい。いつものようにな。」 「……飛影……?」 「お前は、暗黒鏡の出した答えの意味が分かったんだろう?」  ―――答えは、己の心の中にある。―――  オレの心の中は?オレの望みは? 「母さんの記憶は消えたまま。」「シカタガナイ。」「帰れない。」  だから、また逃げるのか?  母さんは、記憶を消されたのに、ずっとオレを想い続けてくれたんたぞ。 それなのに、オレは、母さんの記憶が消えたままだからといって、 そのまま、母さんから姿を消すのか?  母さんに記憶が無いことを逃げる言い訳にするのか? “もう、どこにも、行かないで!母さんを独りにしないで!!  私は……私はね……秀一がいなかったら……絶対に幸せなんてなれないんだから……。”  また、母さんを悲しませるのか?!  蔵馬は、目を閉じて考える。 ――オレの望みは?    魔界に住むこと? 母さんから姿を消すこと? 傷付き傷付けてしまうことを恐れ、何もせず逃げてしまうこと?  違うだろう? 違うと気付いたんだろう?  ほら。まだ耳に残っている。母さんの声が。 “おかえり。秀一。”  目を開けると、不敵に笑う飛影が見えた。 蔵馬は、微笑んだ。  飛影、あなたは本当に何もかもお見通しなんですね。  蔵馬は、力強く言い切った。 「家に帰ります。オレにとって帰る場所はそこだけですから。」  蔵馬の答えに満足したのだろう。 飛影は、「フン」と一言残し、そのままどこかへ行ってしまった。 「それじゃあ、帰ろうぜ。」  桑原は元気良く言った。桑原の言葉にぼたんは頷こうとした。 その時、ぼたんはハッとした。 「ああああ!!!暗黒鏡ぉぉぉぉ!!!」 「あ、そういえば、飛影、持って行っちゃいましたね。」  さらりと言う蔵馬。 「一体、飛影、何のつもりなんだい!?」  また、ぼたんのパニックが始まりつつあった。 「大丈夫、暗黒鏡のことは、また飛影に聞いておきますから。  それにきっと、飛影はもう暗黒鏡は使いませんよ。」  蔵馬は、何故飛影が暗黒鏡を持って行ったか想像がついていた。 それに、飛影が暗黒鏡を使ったのは、あくまで蔵馬のためであることも 蔵馬は気付いていた。 飛影は、どんな欲望があったとしても、暗黒鏡なんかには頼らない。 欲望があったとしたら、きっと自分の力で叶えるだろう。  だから、飛影は、暗黒鏡を使わない。  蔵馬は、ぼたんをなだめるように言った。 「だから、帰りましょう。」  蔵馬は、立ち上がった。 蔵馬の口から“帰る”という言葉を聞き、幽助は嬉しくなった。 「おう!帰ろうぜ!!」  幽助も勢い良く立ち上がり、歩き出した。 幽助に続き、桑原も歩き出した。 暗黒鏡が気になりつつも、ぼたんも続いた。  蔵馬は、突っ立ったまま、しばらく後ろから幽助、桑原、ぼたんの背中を見ていた。 蔵馬が付いて来ていないことに気付き、幽助たちは振り返った。 「おい、何してんだよ!蔵馬!!」 「置いて行っちまうぞ!!」  蔵馬は、3人を見つめた。 そして、頭を下げた。 「ありがとうございました。」  突然、蔵馬は、礼を言った。 いきなり、礼を言われた3人は、驚いた。 でも、改めて“良かった”と3人は思った。  しかし、蔵馬の“ありがとう”には“迷惑かけてごめんなさい”という気持ちも 含まれていることに3人は、気が付いていた。 そんなことは、もう、どうだっていいのに。  だから、桑原とぼたんは、蔵馬の“ありがとう”にどう応えようか正直困っていた。 そんな時、幽助が急に声を上げた。 「あ!忘れてた!!」  そう言った途端、幽助は、蔵馬の方へと走り寄った。 一体何を思い出したんだろう?と蔵馬、桑原、ぼたんは、幽助の行動を見ていた。 幽助は、蔵馬の目の前まで行き、一瞬動きが止まった。 しばらく、じぃ〜っと蔵馬を見て、「うーーん」と唸った。 そして、  ドガッ!!!  蔵馬は思わずしゃがみ込んでしまった。 幽助は、いきなり、蔵馬の頭を殴ったのだ。 蔵馬は無防備だったので、かなり効いた。 「〜〜〜〜!!!」  あまりの痛さに声が出なかった。 まだ、頭がガンガンしている。 「よし!それじゃあ、帰ろうぜ!」  幽助は、何事も無かったかのように平然と言う。  それを見ていた桑原とぼたんは、笑い出した。 そういえば言っていた、幽助が暗黒鏡を使って死ぬ前に。 “無事記憶が戻ったらさ、真っ先に”クラマ”をぶん殴ってやる!” 「お前よく思い出したなぁ。くだらねぇことは、人並みの記憶力あるんじゃねーか?」  桑原は、笑いながら言った。 「どういう意味だよ。だいたいくだらねぇこと無ぇよ!!なっ、蔵馬。」  幽助は、蔵馬に同意を求めた。 しかし、蔵馬は、いまだに手で頭をおさえ、座り込んでいる。 「いや、ちょっと幽助……、同意を求められても……。  それより、あの……すごく痛いんですけど……。」 「そりゃあ、思いっきり頭殴ったんだからな。」  幽助は、ケロリと答える。 「だって、その方が、謝らなくて済むじゃねーか。」 「はぁ……。」  蔵馬は、幽助の言っている意味が分からない。 「言っておくが、オレは怒ってるぞ!オレの記憶を消したこと。」  あ……。 蔵馬は、思わず下を向いてしまった。 結果的に、幽助の記憶は戻ったけれど、もしかしたら、一生戻らなかったという可能性もあったのだ。 何より、その可能性の方が大きかった。 蔵馬は「すみません。」と言いかけた。しかし、幽助の言葉の方が早かった。 「だから、頭殴ったんだよ。  どうせ、お前のことだから、オレの顔を見るたび、申し訳なさそうな顔をして  “すみません”を連発するんだろう?  オレ、そういうの鬱陶しいからよ。  ま、これだけ、思いっきり頭殴られれば、オレに対して“申し訳ない”って  思わねぇだろう?」  幽助の言い分に再び大笑いする桑原とぼたん。 蔵馬は、目が点になっていた。 なんて、無茶苦茶な言い分なんだろう……。  蔵馬もクスクスと笑い出してしまった。  「でもさ、あんたがゲンコツするなんて珍しくないかい。  いつもなら、顔を殴りそうなのにさ。」  ぼたんの質問に密かに蔵馬は頷いた。 蔵馬も意外に思っていたからだ。 どうしてゲンコツなんだろう?と。 「だってよ。これから、蔵馬、家に帰るんだろう?  頬を腫らして帰ったら、お袋さんが心配するじゃねーか。」  蔵馬は、再び目が点になった。 そして、幽助の妙な気の遣い方に初めて声を上げて笑った。  蔵馬は、ようやく幽助の行動の意味が分かった。 ゲンコツをする直前、幽助の動きが止まっていたのは、考えていたからなんだ。 幽助の思考回路はこんな感じだろう。  蔵馬をぶん殴ってやろう! あ、でも、蔵馬のお袋さんを心配させるわけにはいかないから顔を殴るのは駄目だ。 じゃあ、腹か? しかし、腹にあざができる。 腹にあざができたって、服を着てるからすぐには見つからないだろうけれど、 当分あざは消えないから、見つからない保証もない……。 さあ、では、どこを殴ればいいのだろう? お!そうだ!!頭にしよう!! たとえ、たんこぶができたって、 蔵馬は髪の毛が多い(多いわけではない。長いだけなのだが…)から見つからない!! よし!!ゲンコツに決定!!  幽助は、一生懸命考えていたんだ。殴っても殴った痕が残らないところを。 気を遣いながら、遠慮なく思いっきり他人の頭を殴る人なんてそういないぞ?  蔵馬は、久し振りに、本当に久し振りにお腹が痛くなるくらい笑った。 おかげで、頭の痛みが吹っ飛んでしまった。 「……なぁ、蔵馬。オレ……そんなにおかしいこと言ったか?」  蔵馬にここまで笑われると、幽助は不安になってくる。 (しまった、頭を強く殴りすぎた……。) と。      続き