青い鳥


【第5回】  幽助は、ようやく魔界の入り口にたどり着こうとしていた。 (くそぉ……、こんな時に限って客が来るんだからよぉ〜!!)  桑原が屋台を出たあと、 今まで客が来なかったのが嘘のように屋台が繁盛した。 今日はとっとと屋台を閉めて、蔵馬のとこに行こう思っていたのに……。 しかし、最近客が少なかったから嬉しくもあった。 だから、屋台を閉めるに閉められなかったのだ。  幽助は、全速力で走った。 早く、蔵馬に言ってやりたかった。 桑原が言っていたような言葉を。 多分、蔵馬も一番言って欲しい言葉のはずだから……。  それと、謝らなければならない。 殴ってしまったことを。  気付いていた。かなり前から。 自分はこのまま延々と人間の世界にはいられないということを。 どんなにいたくても、いられなくなってしまうということを。 でも、それでも 『人間の世界で暮らしていきたい。』 そう思っていた。 そんなとき、蔵馬が”魔界へ行く”と言い出した。 さらに、大事な人の記憶まで消して・・・・。 ――――「おい、蔵馬。」  いつものように魔界の風に吹かれながら考える。 ――――「ああ、飛影。どうしたんですか?」  いつも頭の中にある迷い。 ――――「貴様に渡したい物があってな。」  いつも”本当にこれでよかったのか?”と何度も何度も自分に問いかける。 ――――「……渡したい物……?」  しかし、いつも答えは出てこない。 ――――「ああ。冥土の土産にな。」  いつもいつもいつもいつも……。 もう、こんな”いつも”は終わらせよう……。  蔵馬は、人間界の方へと歩いていた。 あることを決意して・・・・・!!  今日は、人間界は”満月”である―――!  蔵馬が、”人間の世界にはいられない”なんて言ったら 自分までそうしなきゃならないような気がした。 ずっと、迷っていた。悩んでいた。 頭の悪いオレが1人考え込んでも ”いい答え”は浮かんでこない。 そうと分かっていても、考えてしまう。 ――”いい答え”を教えて欲しかった。  頭の良いやつが出した”いい答え”が ”人間の世界にはいられない”というものだった。 そんなのは、嫌だった。 頭の良いやつがそんな答え出すなよ!! 頭の良いやつがそういうことしたら、 それが一番正しいみたいで、 オレまでそうしないといけないみたいで・・・・。 ―――腹が立った―――  う〜〜ん。 オレってバカだなぁ。 何を他力本願な考えをしてたんだ?!オレは?  とにかく早く殴ったことを謝りたかった。 そして何より、今幽助が思っていること全てを 蔵馬に伝えたかった。  魔界の入り口に着いた。 すると、そこに人影があった。 「・・・・・蔵馬・・・・・!」  幽助は、その人影の名を呼ぶ。 蔵馬も幽助の存在に気が付いたようである。 「幽助・・・。」  風が吹く。 周りの木々がカサカサと騒ぎ出す。  満月が異様な光を放っていた。  少しの沈黙。  幽助は、早く、蔵馬に言ってやりたかった。 桑原が言っていたような言葉を。  しかし、幽助は知らない。 この先、その言葉を蔵馬に言ってやれる日は決して来ないということを……!!  
【第6回】 −−人間と妖怪は共存できるのか・・・・・?!−− その答えは・・・・・・・?  何を緊張しているのだろう? なんだかものすごい嫌な予感がする・・・・。 さっきまで、蔵馬に会いたかった。 会ってすぐに、伝えたかった。 今、オレが思っていることを。  でも、オレは今、”蔵馬に会ってはいけない!!!” そんな気がしてならなかった・・・・・・。 「今日は・・・満月ですね・・・。」  幽助の気持ちも知らずに蔵馬が話しかける。 幽助は返事ができない。 かまわず蔵馬は話を続ける。 「きれいですね・・・・・。」  蔵馬は月を眺めていた。 きれい・・・・・か・・・。 幽助にはそう見えなかった。 どちらかというと、きれいすぎて、逆に不気味だった。 これから起こることをまるで見透かされてるようで・・・。 ―――何かが起きる。  何が起こるか分からない。 何故そう思うのか分からない。 分かるのは、それが決して良い事ではないという事。 そして、これ以上蔵馬に近づいてはいけないという事。 ―――そうこの時まで幽助は、警戒していた。 意味も分からず、ただとりあえず蔵馬には近づかないようにしていた。 しかし、幽助は見てしまった。 蔵馬が手に持つものを。 「暗黒鏡・・・・・!!!?」  幽助は思わず口に出す。 ちょっと待てちょっと待てちょっと待てぇええええぇぇ!!!? なんで、暗黒鏡を蔵馬が持ってるんだ?! 霊界にあるはずじゃあ・・・・? 「どういうつもりなんだ・・・・・?  どういうつもりなんだよ!!蔵馬!!!  なんで・・・・・、なんでそんなもんお前が持ってんだよ?!」  いや、そんなことより・・・・何に使う気なんだ? いや、違う!!何に使うかなんてどうでもいい!! ・・・・・・暗黒鏡を使う気(死ぬ気)なのか?!  嫌な予感なんか気にしている場合じゃない!! 幽助はズカズカと蔵馬に近づいていった。  蔵馬は死ぬ気なのか?死ぬ気なのか?!死ぬ気なのか!!!  わけが分からなかった。 「蔵馬!!先に言っておくがなあ・・・。そんなものは使わせねーぞ!!  何がなんでも奪い返してやる!!!!!!」  蔵馬は静かに視線を幽助に向ける。 蔵馬の瞳はこの満月のようだった。きれいで不気味で・・・。 一瞬幽助はゾクッと身震いをしてしまった。 「幽助。・・・・悪いがオレは何がなんでも暗黒鏡を使うつもりだ。」  蔵馬は静かに言う。 静かだけれどもう何を言っても蔵馬の意思は変わらない、 そんな言い方だった。 幽助はもうどうしたらいいのか分からない。 蔵馬が本気なのはよく分かった。 でも、だけど・・・・ 「暗黒鏡を使うって事は、死ぬって事だろうがよ!!  お前はオレに、お前が死ぬのをじっと見とけって言うのかよ?!  お前が死のうとしてるのに、知らんぷりしとけって言うのかよ!!?」  幽助の言葉が蔵馬に届いているのかいないのか。 蔵馬の答えはこうだった。 「ありがとう・・・幽助。でも、オレはどうしても暗黒鏡を使いたい。」  幽助は問いつめる。 「一体・・・・何に使う気なんだ?命を懸けるほどの願いなのか?」  この幽助の質問には蔵馬も答えは分からなかった。 命を懸けるほどのものでもないと思う。 でも…… 「幽助・・・・・。オレはもう何千年と生きてきた。  ここ数年は今までで一番幸せと思える日々だった。  でも、もう二度とこんな日々は戻ってこない。」 「・・・・それがどうしたってんだよ?!」 「このままの気持ちで何千年と生きていくのは無意味だ。  オレは母さんと暮らしたい。でも、それは危険すぎる。  自分のしたいことができない人生は無意味だ。」  そう。どうせ、無意味な命であるのならば……。 「無意味無意味って。このまま死ぬ方が無意味じゃないか・・・。」 「生きることが正義、生きることが正しいこと、こういう考えは  人間だけだ。寿命が短いからそういう考えになる。  幽助はまだ実感わかないだろうが、たいていの妖怪の寿命は  人間と比べ果てしなく長い。  だから、妖怪にとっては自分のしたいことがなくなったら  死と大差ないんですよ。することがないのに延々と生き続けるのは  苦痛ですから。」    この無意味な命と引き換えに意味ある願いを手に入れよう。   「・・・・・・・・・・・。」 「いかにして死ぬかが重要になるんですよ。」  分からない。分からない。分からない。 一体蔵馬は何を言ってるのか。 一体蔵馬はどうしてしまったのか。 「オレは、暗黒鏡を使って知りたい・・・・。」 −−人間と妖怪は共存できるのか・・・・・?!−− その答えは・・・・・・・?
【第7回】 とにかく今分かることと言えば、何がなんでも蔵馬を止めること。 言葉では何を言っても駄目だろう。 こうなったら、実力行使である。 「幽助・・・・・。」  幽助は妖気を高める。 明らかに戦闘態勢である。 「オレはな、今更言わなくても分かってるだろうが、”バカ”なんだよ!  人間の考え方がどうとか、妖怪の考え方がどうとか言われても  わかんねーし、なによりなんでお前が死のうとしてるのかもわかんねー。  だがな。お前のすることは絶対止めないといけねー。  これだけははっきり分かるぜ!!  霊丸ぶっ放してでも、お前を止めてやる!!」  しかし、蔵馬は動じない。 妖気を高める様子もない。 蔵馬は落ち着いていた。 まるで、幽助がこうなることを予測していたかのように。  蔵馬は静かに幽助に向かって歩いていく。 (何をするつもりだろう?)  幽助はじっと蔵馬を見る。 蔵馬は幽助の横を通りすぎ、どんどんと歩いていく。 幽助は後ろを振り返り 「お、おい!!蔵馬!!!  どこに行く気だ!!!?」  蔵馬も幽助の方へ振り返り 「・・・・君といて楽しかったよ。」  悲しそうに微笑みながら、そう言った。 そういって、幽助に背を向け再び歩き出す。 「ちょ、ちょっと待てよ!!!蔵馬!!!!  お前何言っ・・・・て・・・・・・」 ――ガクン。  幽助は思わず膝を地面につく。 強烈な眠気が襲いかかってきた。 「・・・・急に・・・・・・一体・・・・・?」  どんどん睡魔が襲ってくる。 もう、意識を保っていられない。 辺りには花の香り・・・・。 幽助は、ハッと気付いた。 (夢幻花の花粉!!!??)  蔵馬は幽助と会った時点で、幽助の記憶消去を決意していたのだ。  幽助はすぐにオレが持ってる暗黒鏡を見つけるだろう。 そうしたら、幽助のことだ。 何がなんでも自分を”止めてくれる”だろう。 もしかしたら、オレの足の骨を折ってでも止めるかもしれない。 ――そんな事態が起こったとき、オレは闘えるか?  幽助はオレと闘ってでも、止めようとしてくれるだろう。 じゃあ、オレは、闘ってでも暗黒鏡を使おうとしているか? たとえ、闘えたとして、幽助に勝つ事ができるか? こんな……、こんな気持ちで、幽助を倒す事ができるのか?  あの一瞬の間に蔵馬はそう考えたのであった。 風の向きや強さを考え、少しずつ少しずつ夢幻花の花粉を 幽助に気付かれないように使っていた。  蔵馬にはいつも花の香りがしていた。 だから、幽助は余計に気付くことができなかった。 花の香りの違いなんて、花によほど詳しくない限り分からない。 幽助自身、確かにいつもより花の香りがきついような気はしていた。 でも、まさか・・・・・・ まさか、夢幻花を使うなんて?!  眠ったら駄目だ!!絶対駄目だ!!!! 今眠ったら、もう二度と蔵馬のことを思い出せない!!  しかし、幽助の想いとは裏腹に目を開けることさえ辛くなってきていた。  なんで・・・・? 何でなんだよ?蔵馬・・・・・。  ・・・・・・ちくしょう。 ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょうぅうぅう!!!  幽助は、力を振り絞って叫ぶ。 「蔵馬ぁぁあああああぁぁあぁあぁああああああああ−−−−−−−−!!!!」  幽助の声は、大きく響いたのであった・・・・・。 「ふん、本当に記憶を消すとはな・・・・。くだらんやろうだ。」  そうつぶやいて邪眼閉じる飛影。  蔵馬の行動に別に何も驚きはなかった。 なぜなら、 飛影は知っていたからだ。 幽助の記憶が消されることを。 別に蔵馬に聞いたわけじゃない。 ”知っていた”のだ。  そして、 飛影は知っている。 ――これから起きる全てのことを!!  魔界全土の見える丘に立ち、自分の動く時を待っている。
【第8回】 「もうちょっとで、魔界の穴の入り口だね〜。  いやだね、なんだか緊張してしまうよ。」  ぼたんは内心行きたくなかった。 いくら妖怪は悪い奴ばかりではないと分かっていても 悪い奴もいない事はないのだ。 もし、凶悪な妖怪に出会ってしまったら・・・・・・。 (ああ、幽助、蔵馬、飛影に早く会えますように・・・・・。)  しかし、そう思っていたのは実はぼたんだけではなかった。 (ああ、あいつらと早く会えますように・・・・・。)  と桑原も思っていた。 いきなり、凶悪なS級妖怪にでも会ってみろ。 もうどうしようもないではないか!! 「ああ、そうだな・・・・。  オレも久々だからな。魔界に行くのは;;;」  二人ともかなり緊張しているようで、このように先ほどから同じ会話ばかりしていた。 この会話を何回か繰り返した後、とうとう魔界の穴の入り口が見えてきた。 「え?あれ・・・・・。」  ぼたんが入り口のほうを指差す。 桑原はその方向を見た。すると人が倒れてた。 少しずつ近づいてみる。 「・・・・・・・浦飯・・・・・・?」  桑原は、一瞬ボーゼンとしていたが ハッと我に返った。  幽助がここに倒れているということは、 あきらかに何かが起きたということである。 しかも、こんなところで倒れている。ただ事ではない!! 何より、幽助は無事なのだろうか? 「浦飯!!オイ!!!!浦飯!!」  桑原は幽助の体を軽く揺さぶる。 「幽助!幽助!!大丈夫かい?!」  ぼたんも一緒になって幽助を起こそうとする。 「・・・・・・・んんん・・・・。」  まるで気持ちよく寝ていたのを起こされたみたいに 幽助は半身を起こしボーッとしながら周りを見る。 桑原とぼたんはほっとした。 何があったか知らないが、特に怪我とかもないようだった。 「・・・・?あれ?お前ら?こんな所で一体何してんだ?」 『それはこっちのセリフだぁぁああぁぁああぁーーーー!!!!』  見事に桑原とぼたんの声がハモッた。 散々心配させといて、なんちゅうことを言うのだ、こいつは・・・・・。 気を取り直して桑原が尋ねる。 「オメー、何があったんだ?こんなとこで寝てよ……。」  幽助は”うーん”と唸って 「そうなんだよな。  でもさ、オレ、心当たりないんだよな。」  心当たりがない?! おかしくないか?そんなこと普通忘れないだろう……。 「なんでこんなとこで寝てたんだろうなぁ。  眠たかったのかなぁ〜?  眠たかったから寝たんだろうな。」 「全く!こっちは本気で心配したんだよ?  魔界に行こうとしたら、幽助が倒れてるんだからさぁ。」 「へへへっ。悪ぃ悪ぃー。」 「でも、本当に寝てただけみたいだし、安心したよ。」  おいおいおい。 桑原は、幽助とぼたんののん気な会話を聞きながら呆れかえった。  寝ていただけ……?  そんなことがあるだろうか。 ハッキリ言って”不自然”である。 眠たくなったから、ところかまわず寝る。 本当に眠たい時、そういうことはあるかもしれない。 (ラーメンを食いに行った時、浦飯は眠そうではなかったが) しかし、本人は、心当たりがないと言ってるのだ。  おかしい。おかしすぎる。 何かあったんだ。何かあったことは確実だ。 そう……。例えば……。  記憶を消されたとか……? (まさかなぁ……。)  桑原は考え込むのはそこまでにした。 何故なら、考えすぎだという気がしたのだ。  普通の人なら、こんなとこで寝ていた理由を忘れるわけがないが 幽助の場合となると……ちょっと自信がなくなったのだ。 幽助なら、理由を忘れてもおかしくないかもしれないと 桑原自身思ってしまう。  それに、当の本人(幽助)が気にしてないのに 何故、オレがこんなにいろいろ考え込まないといけないんだ?! とも、思ったからである。 「ところで、魔界に行こうとしたって……?  魔界に何の用なんだ?」  幽助のこの一言で桑原とぼたんはハッとした。 「そうだよ、こんなところでのんびりしてる場合じゃないんだ!!!」 「おお、そうだぜ!!浦飯、良く聞け!!実は……。」  桑原は簡単に事情を話す。 「へぇ……、暗黒鏡がねぇ〜。」  幽助はさほど驚かなかった。 事の重大さが分かっていないのか、 まだ寝ぼけているのか。 「なんか、おちついてるね・・・。あんた。」  少々ムッとしてぼたんが言った。 「暗黒鏡が盗まれたんだよ!  暗黒鏡が悪用されたらどうするんだよ!!」 「でもさ〜、暗黒鏡って命かけないと願いがかなわねーんだろう?  別に悪用なんてされる心配ねーんじゃね―の?」 「………………」 「………………」 「……それも…そうさね…。」 「だろう?」  しかし、ぼたんは首を左右に振り 「いいや!!たとえ悪用されなくとも、暗黒鏡は三大秘宝の一つだよ!  絶対取り返さなきゃ!!」 「浦飯、そういうことだからよ、オレたちも蔵馬のとこに行くぜ!!  盗んだ奴の手がかりが全くゼロなんだ。  お前も蔵馬のところ行くつもりだったんだろう?」  このあとの幽助のセリフで先程桑原が考えたことは、 考えすぎではなかったことが証明される。 「何……?それ……??」
【第9回】 「え?」 「は?」  しばしの沈黙。 3人とも見事にポカーンとしている。 桑原が改めて尋ねる。 「えーと、だから、オメー蔵馬のとこに行く予定だったんだろう?」 「だから、その”クラマ”って何?」  再び、辺りは『し―――ん』となった。 しばらくたって、ぼたんが急に怒り出した。 「幽助!!こんなときに一体何言ってるんだい?!」  ぼたんからしてみれば、幽助は訳の分からないことを言っているとしか思えない。 しかし、逆に幽助からしても訳の分からないことを言われているのだ。 「そっちこそ何言ってんだよ?何なんだよ?その”クラマ”って。」 「蔵馬は蔵馬だろう?!」 「それじゃあ、何の説明にもなってねーじゃねーか!!」 「蔵馬をどうやって説明しろって言うんだい?!」 「だって、お前、”クラマ”って何か知ってるんだろう?」 「あんたもよく知ってるじゃないか!!!」 「知らねーから、聞いてんだろうが!!」 「知らないわけないだろう!!」 「知らねーっつったら知らねーんだよ!」  ぼたんと幽助はだんだんと喧嘩に近い口調になってきた。 桑原はその喧嘩を聞きつつも思い出していた。 ――屋台でラーメンを食べてるときの幽助との会話を……。 ”南野秀一に関わった人の記憶を消したんだって。  みんな消したんだってさ、母親さえからも・・・・・。”  そう、幽助の話によると、蔵馬は家族や同僚の記憶を消したのだ。 だったら、幽助も記憶を消されたのではないのだろうか? ――でも、まさか……。まさか、蔵馬が……?  しかし、まさかまさかと思いつつも、桑原は根拠もなく確信していた。 蔵馬が幽助の記憶を消したのだと。 「桑ちゃん、どうしよう。幽助がおかしくなっちゃったよぉ。」  口喧嘩の末、ぼたんはとうとう半泣きの状態で 桑原に助けを求めに来た。 さらに、ポソッと一言付け足した。 「……いや、まあ…もともと普通じゃなかったけどさ。」 「ど――いう意味だよ!!!!」←聞こえた。  幽助がまた、怒鳴る。 しかし、ぼたんも負けずに怒鳴り返す。 「そのまんまの意味だろう!!」 「じゃあ、何か!?オレはおかしいのかよ?!」 「ああ!そうだよ!!あんたが普通だったら、この世が終わっちまうよ!」  ギャーギャーと口喧嘩の第2ラウンドが開始された。  桑原は、思う。 暗黒鏡が盗まれ、誰が犯人か検討もつかないという状況に加え、 蔵馬が幽助の記憶を消したかもしれないという信じられない事が 起こっているのにも関わらず、 何ゆえ、こいつらは、のんきに平和的な(というかどうでもいい)口喧嘩ができるのだろう……。 (結局焦っているのはオレだけか!!?)  そう思うと桑原はだんだんと腹が立ってきた。 幽助とぼたんの平和的な口喧嘩をピタッと止めるほどの 大声で桑原は言った。 「テメェ――――ら!!!!  もう少し、今起きている事の重大さを思い知りやがれ―――――!!!!!」  あまりにも大きな声で、あまりにも突然だったので、 幽助とぼたんはビクッとし、同時に桑原を見た。 「特に浦飯!!!お前は、記憶を消されたんだぜ!!!分かってんのかぁ!?」  ビシッと幽助を指差し、桑原が言った。 しかし、幽助が記憶を消されたと分かっているわけがない。 記憶を消されたんだから……。 桑原のその言葉で初めて自分は記憶を消されたと知ったのだ。 「ええ―――――!!なんだって?!幽助、記憶を消されたのかい?!」  幽助よりもまずぼたんが驚く。 いや、幽助もかなり驚いたのだが、ぼたんがそれよりもはるかに驚き、 先に声を上げたので、驚きそびれたというところだろうか……(笑) 「でも、一体誰が何のために?!」  驚きの声の後に、疑問を桑原に投げつけるぼたん。 「なんでかってのは、オレもわかんねーけど。  記憶を消したのは多分蔵馬だ。」 「蔵馬が?!一体なんで……。」 「だから、わからねーってば……;;;」  ぼたんはかなり混乱している。 幽助が記憶を消されたということだけでも 十分混乱できるというのに、 さらに記憶を消したのが蔵馬だという。 もう、右も左も分からない状態である。 「お前、暗黒鏡は記憶にあるみたいだな?」  桑原は幽助に尋ねる。 「え?……ああ。」 「じゃあ、以前誰が盗んだ?」  桑原は幽助に記憶喪失という事実を自覚させようとしているのだ。 「えーと…確か3つ宝があって、魂を吸い取る玉(餓鬼玉)と、剣(降魔の剣)と、  そして、暗黒鏡だったよなぁ。  それを盗んだのは、飛影と…………?  あれ?あと2人誰だっけ?」  桑原は困ってしまった。 折角、記憶喪失を自覚させようとしているのに 蔵馬だけでなく、剛鬼のことも幽助の頭から自然消去されている。 「あんたね!蔵馬のことは記憶消されたみたいだから仕方ないけど  剛鬼のことはあんたが自分で忘れてるだけじゃないか!!」  このぼたんの一言が幽助に記憶喪失を自覚させる事になった。 「あ!そうそう!!剛鬼!!思い出した!!!」  桑原はその言葉にハッとした。 忘れても”思い出せる”。 でも、記憶を消されたら……。 「浦飯!飛影と剛鬼とあと誰だか分かるか?」 「…………わからねー……。」 「あと1人が蔵馬って奴なんだ。”思い出せる”か?」 「……………………。」  …………誰?  もやもやとしている。 もう1人いたのは確実なのに、誰だか分からない。 顔も思い浮かばない。 剛鬼のことは、 ぼたんに”剛鬼”と名前を教えてもらう前から 顔も思い浮かんだし、どんな風に戦ったのかも覚えていた。 魂を喰う奴というのも分かっていた。 でも、”クラマ”って聞いても何も思い浮かばない。 全く知らない言葉を聞いたときのように 耳から耳へと通り抜けていく。 ――本当に記憶を消されたんだ。  でも、確かに、なんか、悔しい想いがある。 ”ちくしょう”と強く想った気がする。 それが一体何なのかは知らないけれど。 「とりあえず、今は暗黒鏡を探すために、蔵馬の知恵と知識が必要だ。  そして、浦飯の記憶喪失の件でも蔵馬に確認しないとな。」 「でも、一体どうやって蔵馬を探すんだい?  今の話を聞いてるとすぐに見つかりそうなとこにいないような  気がするんだけど。」 「本当に蔵馬が浦飯の記憶を消したというのならそうだろうなぁ。  何とか、蔵馬を見つける方法ないか?」 「あ、妖気計ならあるよ。」 「でも、それって確か蔵馬の髪とか爪とか体の一部を持ってないと駄目じゃなかったか?」 「あ、あはははは、そんなの持ってるわけないやね。んーと、じゃあ、  以前も飛影探しで大活躍!!いたこ笛!!」 「どうして記憶を消した本人が自分からのこのこ出てくるんだよ!!」  ぼたんは、非常事態になると、果てしなく冷静さがなくなるようだ。 「じゃあ、一体どうしたらいいんだい?!」 「飛影のいるとこなら分かるけど。」  ずっと座っていた幽助が立ち上がりながら言った。 「飛影のいるところは魔界の入り口からそんなに遠くない。  飛影に邪眼で探してもらおうぜ。  その”クラマ”って奴を。」 「あいつが素直に協力してくれるか〜?」  と、言いつつ桑原はその意見に賛成のようである。 「でも、それしか方法はないよ。」  ぼたんも、大賛成である。 「んじゃ、行くか!」  そういって3人は魔界へと歩き始めた。
【あとがき】 第5回で一応第一部終了……。 まあ、第一部というか少々長めのプロローグが終了という感じでしょうか? さてさて、幽助が蔵馬を殴った理由ですが……。 あまり言葉に直さない方がいいかなと思うのですが、ちょこっとだけ……。 幽助も幽助なりに悩んでいたんです。 蔵馬もそうですが、幽助も意外と悩みを人に打ち明けないタイプですよね。 大事な事なら大事なほど打ち明けない。 打ち明けるとすれば、ある程度自分の中でどうするか決めてからか、 もしくは、相手から打ち明けろといった場合か。 それで、幽助も1人で悩んでいたのです。 ずっと人間界にいられないのは明らかですから。 どうしたらいいのか……。 そんなとき、同じ境遇(?)である蔵馬くんがとんでもないことを言い出したわけです! 同じ境遇だから気持ちは痛いほど分かるわけです。 でも、同じ境遇だから余計に蔵馬の言うとんでもないことをしてほしくないのです。 だから、殴ってしまった。 これは自分のために蔵馬を殴った理由ですね。 蔵馬のために蔵馬を殴ったのもありますよ。もちろん!! さあ、第6回から第2部の始まりです。 第2部は第1部より重たいぞぉ〜、暗いぞぉ〜、 蔵馬さんとんでもないことするぞぉ〜♪ ――な感じです。 さて、第6回で蔵馬さんが何を願うかが明らかになりました。 ちなみに蔵馬さんは自殺するわけじゃないです。 別に死にたいわけじゃないんですから。 ただ、知りたいだけなんです。 魔界に来てからずっとずっと悩み続けて、人間と妖怪は共存できるのかどうかを 考え続けて……。 ずっとその答えを教えてほしかったんです。 このまま生き続けても答えは出てこないと蔵馬さんは判断したわけです。 答えを知ることができるのなら、何でもしてやる。 ――まあ、簡単に言えばそんな感じなのかもしれません。 第7回は幽助の記憶消しちゃった♪ ――というお話でした。 蔵馬さんはこの期に及んで、迷ってます。 「何が何でも暗黒鏡を使ってやる!!」と思っているのも事実なのですが 「本当の本当にこれでいいのか?後悔しないのか?」という気持ちも 無いこと無いのです。 そんな気持ちで幽助と闘っても勝ち目ないのです。 幽助は蔵馬を止める事に何の迷いもないのですから。 迷いを断ち切らないといけない。 しかし、幽助とは闘えない。 だから、夢幻花に頼るしかなかったのですね。 さて、一番謎なのが飛影氏。 この話、飛影氏は影でこそこそ動いています。 第8回で、桑ちゃん、ぼたん、幽助が合流しましたね。 幽助が倒れていた事について、幽助とぼたんはさほど気にしてないのに 桑ちゃんが、おかしい点を、一生懸命一人で考えているというのが 個人的に好きです。 一番気にしないといけない幽助は「眠たかったから寝たんだ」という 安直な考えで自己解決してしまってます。 幽助&ぼたんののんきなところは大好きです。 このコンビ自体も好きですしね。 第9回での幽助とぼたんの非常にどうでもいい口喧嘩が大好きです♪ 今回のお話、幽助とぼたんの口喧嘩を除いたら、そんなに 内容がないのではなかろうか?と思ってしまいます。 第8回に引き続き、桑ちゃんは一人で考えてます。 桑ちゃんは、さぞかし蔵馬の存在がどんなに貴重なものか 身にしみてる事でしょう(笑) 蔵馬を除くと考えるキャラが少ない少ない……(^^; アニメではぼたんも剛鬼のこと忘れてましたよね。 幽助も剛鬼という名前は忘れてるんだろうなぁと思います。 そう思うとちょっとかわいそうかも、剛鬼……(笑) このお話の感想メールお待ちしております。
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