憎しみを打ち砕くもの


【プロローグ(語り:桑原)】  毎年、父の日には、親父にプレゼントをしている。 姉貴が、「父の日のプレゼントを買って来い!!」と毎年命令するからだ。 いつも世話になってる親にプレゼントするのは、悪い気はしない。 オレ自身も、親父のプレゼントを買うことに異論はなかった。 ただ、異論があるとすれば…… 「いいかい?和。今年はネクタイを買ってきな!  派手なやつを買ってくるんだ。  そうだねぇ……。黄色いネクタイがいいねぇ。  そして、赤いお日様模様があるやつなら、もっといい……。  よし!和!!  黄色いネクタイで、赤いお日様模様のあるものを買ってきな!!  手に入れるまで帰ってくるんじゃないよっ!!」  そんなネクタイが、どこに売っている―――――!?!!!  そう、姉貴は、いつもいつも無理難題をオレに押し付ける。 しかし、金を出すのは、姉貴なのだ。 強制的にオレは、「買い物係」なってしまう。  奇跡的に見つかった、赤いお日様模様の黄色いネクタイを 親父にプレゼントした時、親父は、泣いてこう言った。 「おお!!!ありがとう!!!!こういうのが欲しかったんだ!!!」 だった。  姉貴は、親父の変な趣味を一番理解しているのだ。 プレゼントをして、泣いて喜んでくれるのは、嬉しい。 ――が、我が親父ながら、どういう趣味をしてるんだ?!と思う。 変な趣味のものを探して買ってくるオレの身にもなって欲しい。  赤いお日様模様の黄色いネクタイだって、 (見つからなかったら、姉貴に半殺しにされるので)死に物狂いで散々探し回った。 最終的に、浦飯や蔵馬にまで「一緒に探してくれ」と頼み込んだ。 浦飯も蔵馬も目が点になっていた。 それはそうだろう。 「頼む!!赤いお日様模様の黄色いネクタイが見つかるまで  家に帰れないんだ!!  探すの手伝ってくれェェ!!!!」  と、言われたら、目を点にするしかないだろう。 浦飯も蔵馬も、ひどくオレに同情してくれたのか、一緒に必死に探してくれた。 おかげで、父の日までに無事、赤いお日様模様の黄色いネクタイを手に入れることが できたのだ。  ――と、まあ、ここまでが、去年の話だ。 今年も、父の日が近づいてくる……。 もう、そろそろ姉貴が命令してくるはずだ。 一体、今年は、どんな無理難題を押し付けられるのか? 「和。もうすぐ、父の日だね。」  きたぁぁあぁぁぁ!!!!!! 姉貴の一言に、緊張が一気に高まった。 さあ、今年のプレゼントは、何だ? オレは、身構えてしまった。 すると、 「父の日……というのもあるんですか?」  姉貴のそばにいた雪菜さんが、驚いたように言った。 「そうだよ。雪菜ちゃん。  5月には、子供の日と母の日があっただろう?」 「はい……。……教えていただきました。」 「子供と母があるなら、父の日があってもおかしくないだろう?」  姉貴は、“父の日”があって当然だと断言するように言った。 姉貴は、“子供の日”“母の日”の時と雪菜さんの様子が違うことに 疑問を抱いてるようだった。 「……そうですね……。」  そう言った雪菜さんの顔が、妙に冷たく見えた。 気のせいだろうか?  オレも姉貴も、少々顔をしかめてしまった。 このときの雪菜さんの顔は、初めて見る顔だった。 さらに、オレが驚いたのは、次の雪菜さんのセリフだった。 「そういえば、私の父って、どんな人なんでしょうね。」  まるで、他人事のように雪菜さんは言った。 「兄には、すごく会いたいと思ってるんですが、  父には、会いたいって思ったことないんです。  不思議ですね。」  雪菜さんは、笑っていた。 でも、“笑っていない”ように見えた。 そのときは、オレは、雪菜さんの感情が分からなかった。 ――雪菜さんの冷たい笑顔の理由が分かったのは、屋台で浦飯を話をしてるときだった。 「で?今年の父の日のプレゼントは、なんなんだ?」  浦飯は、“ワクワク”といった感じで聞いてきた。 ちくしょう(怒) こっちは、大変だってーのに!! 「……マフラーだよ!」  オレは、ため息をついてしまった。 「え?マフラー?これから夏になるのに?」 「そうだよ。」  浦飯は、楽しそうだった。 必死に笑いを殺してるのが、よく分かった。 去年は、いきなりだったからか、同情的だったが、 今年は、逆に楽しんでるようだ。 「でも、よかったじゃねーか。  マフラーだったら、売ってなくても、その気になれば、編めるんだしさ!!」 「ただのマフラーなわけねーだろう!!  厳つい鬼のイラストが入ったマフラーじゃねーといけねーんだと!!」  今度こそ、浦飯は、大爆笑しやがった。 笑いを殺しきれなかったらしい。 オレがブスッとしていると 「そんないじけんなよ!  また、協力してやるからさっ。」  浦飯は、そう言いながらも、まだ笑いがおさまらないようだ。 引き続き、オレはブスッとした。 (くそぉ……。オレにとって父の日がどれほど怖いものか、浦飯の奴、全然分かってねー!!)  その時、ふと思った。 「あ、そういえば、お前……親父さんは?」  自然に出た言葉だった。 実は、前々から気になっていた。 親父関係の話題に今までなったことがなく、聞いたことは一度もなかったが。 いきなり何の前触れもなく「おまえの親父は?」なんて聞けるわけなかったし……。  しかし、浦飯は、きょとんとして、 「え?雷禅?」  と聞き返してきた。 オレは、勢いよく言った。 「違う!人間の方だよ!!」  言ってから、ハッとした。 浦飯は、ビックリしたような顔をしていた。 急に、聞いてはいけないことを聞いてしまったのではないか?と思った。 どうして、言ってしまう前に気付かなかったのだろう? 人には言いたくないことの一つや二つ、誰だって持っているものなのだ。 それをオレは、ちょっとした好奇心で聞いてしまった気がした。 妙に自分が恥ずかしくなってしまった。 オレは、思わず下を向いた。 そして……恐る恐る浦飯の顔を見た。 「さあ?」  浦飯は、笑っていた。 口調も軽かった。 でも、さっきまでの笑顔とは違った。 冷たい感じがした。  あ……分かった―――。  この前の雪菜さんと同じ顔だ。 ただ、浦飯の方が、分かりやすかった。 雪菜さんのときとは、異なり、浦飯の感情が手に取るように分かった。  浦飯は、こう言っている。 ―――あんな奴、親父なんて思ったことね―よ――― と。 簡単な言葉に置きなおすと、父親に対する「憎悪」。 いや、愛したかったものに対する「憎悪」と言った方がいいのかもしれない。 その「憎悪」が、冷たい笑顔を作っている。  ということは、あの心優しい雪菜さんの中に「憎悪」があるということなのか? ――父には、会いたいって思ったことないんです。  冷たく笑いながらそう言った雪菜さん。 一体、何があったんスか?  オレは、生まれた時から、親父がいた。 親父に対して、「憎悪」を抱くなんて、考えられない。 愛したいものを愛せずに、憎悪しなければならない立場に立たされたこともない。 だから、雪菜さんの気持ちも浦飯の気持ちも正直分からない。  でも、「憎む」というのは……辛くないですか?  オレは、決して開けてはならないパンドラの箱を開けてしまった気分になった。 【ACT1(語り:飛影)】  時雨に邪眼を移植してもらってから、ほどなく氷河の国が見つかった。 オレが生まれた国。 オレは、氷河の国に、わずかながらも「期待」を持っていたのかもしれない。 無意識のうちに、「帰る」という気持ちがあったのかもしれない。 だからだろう。 氷河の国に着いた途端、妙に沈んだ気分になったのは。 ――殺す価値もない……。  もともと、氷女たちを殺すつもりは、なかった。 だが、氷河の国に着き、氷女たちを見ると、そう思わずにはいられなかった。 氷女たちは、息を潜めて、暮らしていた。 何の感情もないように見えた。陰気な感じがした。 こいつら(氷女たち)は、生きていない。 単なる動く死体だ。 オレはそう思った。 ――死体を殺すことはできん。  氷河の国に来たのは、さっきも言ったとおり、氷女を皆殺しにするためじゃない。 ただ、見てみたかったんだ。 自分がどんな所で産まれたのか。 自分を産んだ奴が、どんな所で生きていたのか。 ただただ、それだけのために、来たんだ。  来てみれば、来る価値のない場所だった。 裏切られた気分になった。 国全体が死んでいる。 こんな国を少しでも期待したオレがバカだった。  オレは、この国を憎く思う。 この国は、オレに「捨てられて良かった」と思わせるのだ。 この国は、オレから、わずかにあった氷女たちへの恨みの念さえ、奪ってしまうのだ。 「どうしてオレを捨てたんだ!?」と、氷女たちに少しでも怒ることができたなら、 オレは、この国を憎いとは思わなかっただろうに……。  腹が立つ!!なんて憎いのだろう!! こんな国、今すぐ出よう。  その時、後ろから声が聞こえた。 「あ……!あなたは……!!」  振り向くと、懐かしい顔があった。 オレを捨てた女だ―――!! 【ACT2(語り:雪菜)】  私は、異端児として周りからよく冷たい目で見られました。 泪さんから、聞いた話によると、 どうやら、私の母が氷河の国の掟を破り、 男の方と一緒になって、私を産んだかららしいのです。  男の方と一緒になって子供を産むと、命を落とすと知っていて、 母は、私を産んだのだと泪さんは言いました。  私は、母を誇りに思います。 命を賭してまで、私を産んでくれた母に、私は感謝しています。 母は、きっと温かい人だと思います。 私も温かい人になりたい。 ――この国は、冷たすぎる……!  この国の人たちは、母の悪口ばかり言います。 みんな、口をそろえ、母のことを「汚らわしい女」と言います。 許せない! 母が汚らわしいというのなら、あなたたちは一体何なのか? 冷たいだけの生き物じゃないですか!! いいえ、生き物じゃない! 生きている者は、きっと温かいものだから……。 あなたたちは、生き物じゃない……。  また、この国の人たちは、私のことを「汚らわしい女の娘」と思ってるようです。 つまり、「かえるの子はかえる」ということでしょう。 私は、それには異論はありません。 母のような人を「汚らわしい」というのなら、私は、喜んで「汚らわしい女」になりましょう。 私は、この国の人たちのようには、ならない! 絶対にならない!! 「この国の人たちを……憎んでる?」  ある日、泪さんがそう尋ねてきました。 泪さんは、母の友人らしく、氷河の国で唯一私の好きな方です。 「いいえ。憎んでいません。  憎むにも値しません。」  私は、別に誰に聞かれても構わないと思っていましたから、 堂々と大きな声で、キッパリと言いました。 泪さんは、少し焦ってしまったようです。 誰も聞いてないか、確認されてました。 「あなたは、氷菜そっくりね。  外見だけじゃないわ。性格(中身)も瓜二つだわ。」  泪さんは、困ったように笑いながら、そう言ってくれました。 私は、泪さんにそう言われるのが、一番好きでした。  ただ、以前、泪さんに言ったことがあるんです。 「泪さんに母にそっくりだと言われることが一番嬉しいです」と。 すると、泪さんは、悲しそうに微笑みながら「そう。」と言うだけでした。 何故だか、その時は、分からなかったのです。 その当時は、私に兄がいることも、兄を捨てたのが泪さんだということも 知らなかったから……。 【ACT3(語り:飛影)】  女は、オレを見るなり、こう言った。 「お願い!私を殺す前に、一緒に来て欲しいところがあるの!  私を殺すのは、ちょっと待って……。  何が何でもあなたに来て欲しい!!」  女は、目を大きく開け、ひどく取り乱していた。 殺される気でいるらしい。 「フン、ならさっさと案内しろ。」  そう言ってやると、女は、少しホッとしたようだった。 「こっちよ。」と言い、オレの前を歩いた。  しばらく、歩くと寂しい場所にたどり着いた。 そこには、ポツンと一つ、哀れな墓があった。 「氷菜の……あなたの母親の……お墓よ。」  女の言葉に、オレは、無言で頷いた。 歩きながら、予想していたことである。 この女がオレを連れて行く場所といえば、それしか思いつかない。 「ごめんなさい……。ごめんなさい……!」  急に女が泣き出した。 大量の氷泪石が辺りに散らばった。 「許してもらえなくていい。あなたを捨ててしまった。  氷菜のお墓も……こんな……こんなところにしか作ってあげられなかった。  ごめんなさい……!」  オレにとっては、もうどうでもいいことで、女はひたすら謝った。 墓については、これで良かったと思っている。 墓は、この国の端の端にある。 誰も寄り付かないところにある。 墓が、この国のど真ん中になくて、良かったと本心から思う。  この墓に眠る氷女は、この国の氷女たちと違う。 きっと違う。 ただ息をしてるだけの生き物でなかったはずだ。 動く死体ではなかったはずだ。 それなら、墓は、この場所でいい。 この国の氷女たちなんかと一緒にいない方がいい。 「フン……。この墓に眠っている奴は、“ここがいい”って思ってるさ。」  オレの独り言に、女が鋭く反応した。 「……そうね……。……氷菜は、この国に対して怒っていたわ。」  女は、涙を拭いた。そして、思い出したように辛く笑った。 女は、話を続けた。 「氷菜は、この国を、自分の故郷を、愛したいのに愛せないと嘆いていた。  この国を憎んでいたわ……。」  奇妙なものだ。 オレにとって、その言葉は、嬉しいものだった。 オレも同じ気持ちだ。 オレもこの国が憎い。  だから、もう氷河の国には来ない。 オレはもうここには来ない。  オレは、誰にも聞こえないように…… 隣にいる女にも聞こえないように…… 小さな小さな声で、この墓に眠る氷女に言った。 ――もう二度と会いに来ない……。  それでも、この墓に眠る氷女は「それでいいよ。」と言ってくれるような気がした……。  【ACT4(語り:雪菜)】 「私の父は、どんな人なんですか?」  泪さんにこのような質問をしたことがありました。 泪さんは、何も言わず、首を振りました。 別にどんな人でも良いんです。 それより、どうして、父は、私に会いに来てくれないのでしょう? 不思議でなりませんでした。 父は、きっと生きていると思います。 父は、母が死んだことも、私が産まれたことも知っているはず。 私が氷河の国にいることも知っているはず。 なのに!!どうして!! どうして、私に会いに来てくれないのか!! 「私は、父が憎い!」  思わず、発したこの言葉に、泪さんは、驚かれたようでした。 「母が命を賭けて、私を産んでくれたのに、父は一体何をしてるのでしょう?  憎いです。すごく父が憎いです。」  氷泪石がこぼれてしまいました。 でも、私は、気にせず続けました。 「私を助けてほしいのに……。この国は冷たいから…この国の人たちは冷たいから…!  私は、いつも独りぼっち…なのに……。」   辛いんです。この国にいることが。 助けてほしいんです。  それに、私は信じていたかったのです。 母と父は、愛し合っていたと。 だからこそ、私が産まれたのだと。 でも、父は一向に私を迎えに来てはくれない。 なんだか、母の死が意味のないものに思えてくるのです。 そう思うと、悲しくて、悔しくて、父が憎くて憎くてなりません!  ふと、気がつくと、泪さんも泣いておられました。 「ごめんね……。ごめん!!ごめんなさい……。」  泪さんは、ひたすら私に謝りました。 私は、涙を拭き、慌てて言いました。 「あ、すみません。独りぼっちじゃないです!  泪さんがいます!私には、泪さんがいます!  変なこといって、泪さんを悲しませてしまって、すみません。  泪さんは、私の育ての母です。罰当たりなこと言って、ごめんなさい!!」  しかし、泪さんは、泣くのをやめてはくれませんでした。 何故、泪さんが謝っているのか分かりませんでした。  ただ、泪さんが育ての母には違いないのですが、 ひどい言い方をすると、完全に私の味方でもないのです。 この国の人たちと私の間に挟まれ、 泪さんは、この国の人たちにも逆らえず、私のことも見捨てられず、  あっちに行き、こっちに行きとどちらにもつかずなのです。  だから、私には、本当の味方がいなかった。 寂しくて寂しくて、度々、この国を抜け出していました。 このまま、どこかへ行ってしまいたい……。 よくそう思ったものです。 でも、どこへ? どこに行っても、私は、独りなのに……。 私は産まれて、温かいものに出会ったことがなかったのです。 温かさを想像するしかなかった。 温かい人がいるなんて、正直、信じられなかった。 だから、この国を出る勇気がなかったんです。  氷河の国を出ても、結局、私は氷河の国に戻るのでした。 独り涙を流しながら……。 【ACT5(語り:飛影)】  オレは、翻し、もと来た道を帰ろうとした。 「ちょっと待って!!……殺さないの?」  オレは、女の言葉を無視して、そのまま歩いて行った。 「ねえ?!どうして?どうして殺さないの?」  女は、オレの方へと走ってきた。 「フン、くだらん。」  オレは、歩くスピードを緩めなかった。 女は、小走りしながら、オレの後をついてくる。 しばらく、無言が続いた。  急に女がオレの前に立ちふさがった。 「ひとつだけ、聞いてちょうだい。  ……あなたには、妹がいるの!!  あなたの片割れが……双子の妹が……!!」  当然ながら、初耳だった。 オレに妹がいる?! しかも、双子!! オレの片割れ……。  興味のある話だった。 オレは、足を止めた。 「あなたの妹の名前は、雪菜。」 ――雪菜……。  オレは、他人の名前なんぞ滅多に覚えない。 どうでもいいからだ。 殺してしまえば、名前などあってもなくても同じだし、 関わりがなければ、それこそ、名前などどうでもいいものだ。  初めて、巡り会った大事な名前だ。 ――雪菜。  何回も、心の中で「見たこともない妹」の名前を呼んだ。 「でも、雪菜は、今、行方不明なの……。  あの娘、国の掟を破って、よく国の外に行っていたから……。  あなたに会わせてあげたいけど、会わせてあげられない……。」  新しい生きる目的が見つかった。 雪菜を探す!  再び、オレは、歩き始めた。 もう女は追っては来なかった。 その代わり、女が後ろから叫んできた。 「雪菜は、似ているわ!!!氷菜に!!!  そっくりよ!!  雪菜は、氷菜の分身だもの!!  似ているわ!!!すごく似ている!!!!」  オレは、振り返らずに歩き続けた。  さらばだ。氷河の国よ。 非常に憎くて、腹が立つ……そして、寂しい国だった。 ――自分の故郷を、愛したいのに愛せないと嘆いていた。 ――この国を憎んでいた。  もう二度と来ない……。 さらばだ。産まれ故郷よ…。 【ACT6(語り:雪菜)】  和真さんたちに助けられ、何年振りかに氷河の国に戻りました。 私がいない間に、すごいことになっていました。  私には、兄が、双子の兄がいたと泪さんから初めて聞きました。 泪さんは、泣きながら全てを教えてくれました。 やっと分かりました。 いつも泪さんが、私に対して、すまなさそうにしていたわけが。  私が人間界で捕まっている間に、兄がこの国に来たようです。 兄は、生きてるのです!!  私は、兄を捨てろと命じた氷河の国の人たちや兄を捨てた泪さんに 怒りを感じました。 しかし、それ以上に兄に会いたい!と思いました。 氷河の人たちや泪さんを責めている時間が惜しいと思いました。  氷河の国には、兄がいないことは、確かです。 だから、こんな国には用はない! とにかく、この国は、とっとと出てしまおう! どこに探しに行けばいいのか分かりませんでした。 真っ先に思いついたのが、つい最近までいた人間界。 何も持たずに、会ったこともない兄のことだけを考えて 氷河の国を出てしまいました。  兄は、私をどう思うのでしょう? 好きでも嫌いでも……どう思われてもいいんです。 私の直感は、こう告げています。 私は、兄を愛することができる!! 兄は、氷河の国に来てくれました。 私を迎えに来たわけじゃないのは分かっています。 でも、父は、氷河の国にすら来てくれなかった!!  私は、父が憎いです。 でも、もし、私が兄を愛することができたなら、救われるような気がするんです。 父を愛したくても、愛せなかったこの苦しみから…… 父に対して憎まなければならないこの辛さから……  兄に会いたい!! 【ACT7(語り:飛影)】  垂金の屋敷で、産まれて以来の再会をした。 これが雪菜……。 オレの妹。  雪菜の顔を見て、オレはホッとした。 雪菜は、生きている顔をしている。 氷河の国の氷女たちとは、違った。  氷河の国は、憎いと思うけれど…… 良かった……オレは、雪菜を見て、憎いとは思わなかった。  変な奴だ。 氷女のくせに、温かい感じがする……。  ――雪菜は、似ているわ!!!氷菜に!!!  オレを捨てた女の最後の言葉を思い出した。 そうか……。 雪菜は似ているのか……。 なら、オレを産んだ女もこんな感じがしたのだろうか……。  オレに、ある感情が生まれた。 この感情の名前を、オレは、知らない。 憎しみとは、かけ離れた感情だった。 氷泪石を眺めているときの感情に近かった。 「あの……あなたは?」  どうやら、雪菜は、兄の存在を知らないようだった。 それでいい。 オレの存在なんぞ、知らなくていい。 オレは、もう満足した。 もう、望むことはない。  雪菜は、氷河の国に戻っていった。 オレは、兄だということは、言わなかった。 これからも言うつもりはない。  氷河の国は憎い。 しかし、雪菜を憎いと思わなかった。 そのことが、オレにとって、どれほど救いであったか……。 どれほど救われたか……。 雪菜は知らない。 知らなくていい。 オレが覚えておくから。  オレは生涯、この名も知らない感情を忘れない。 【エピローグ(語り:桑原)】  まずいことを聞いてしまった……。 オレは、何を言えばいいのか分からず、黙々とラーメンを食った。  雪菜さんも、色々あったのだろう……。 どんなことでも、オレに話してほしいと思う。 けれど、辛かった出来事を言語化するには、頭の中でその辛かった出来事を 再生しなければならない。 それを話せというのは、やはり酷じゃないか……。  ……雪菜さんにも、浦飯にも、父親に関する話題は避けよう……。 「お前……オレに親父のこと聞いたの後悔してるだろう?」  ブッ!! オレは、ラーメンを吹き出してしまった。 「ゲッ!!汚ねーなぁ!」  浦飯は、オレに布巾を放り投げた。  いきなり、浦飯の奴が核心ついてきやがったから、オレは、心臓が飛び出るほど ビックリした。 オレは、もうこの話題(父親に関する事)には、ふれないでおこうと思っていたのに、 相手から、(しかもズバッと)この話題についてふれてきたのだ。  オレは、布巾で吹き出してしまったラーメンを拭き取った。 「お前なぁ……、普通客に拭かせるか?」 「だって、汚ねーんだもんよ。」  浦飯は、いつもの顔で笑った。 布巾をオレに渡したのは、こいつなりの配慮かもしれない。 オレに黙々としてほしくなかったのだろう。 いつもどおりにしてほしかったのだろう。 こいつは、気を遣われるのが苦手なのだ。 「確かにさ、聞かれていい気分しねーけど、  オレは……救われた方だと思うよ。」  いつになく、優しい穏やかな笑顔だと思った。 珍しいことだ。  浦飯の言っていることの意味は、実はよく分からなかった。 ただ、憎しみの感情より勝るプラスの感情が浦飯にはある。 だから、「救われた」と言っているのだろう。 雷禅の存在に救われたのだろうか? 「親父さんは?」と聞かれて、浦飯は迷わず「雷禅?」と 聞き返してきた。  雪菜さんも、憎しみの感情を抱いている。 でも、探し求めているお兄さんには、きっとプラスの感情を抱いてるはずだ。 どうか、プラスの感情で憎しみの感情を打ち砕いてほしい。 雪菜さんもそう願っている。 雪菜さんを救うためなら、オレは何だってしてやるから。 「よし!!オレは、雪菜さんのお兄さんを、これからも、より徹底的に探してやるぜ!!  オメーも協力してくれよなっ!!」 「え゛っ!!」 「……お前……、雪菜さんのお兄さん探しのことになると、  なんで、いつもオレから目線をそらすんだ?」 「え?……そ、そんなことねーよ?」  浦飯は、慌てて皿洗いを始める。 相変わらず、不可思議な行動をとる奴である。  本当言うと、オレが雪菜さんを救いたい。 雪菜さんがオレに対して、どんなマイナスの感情にも負けないくらいのプラスの感情を抱いてくれたら、 雪菜さんの中にある憎しみの感情を打ち砕けるのではないか? ――というわけで、 雪菜さんのお兄さんを探しつつ、オレはオレで頑張ろうと思う。     ★おしまい★
まず、初めに……、すみません。「青い鳥」の続きじゃなくて……。 「青い鳥」の第23回を書かなきゃ駄目だなぁと思いつつも ちょっと気分転換したくなり、違う話を書いてしまいました。 最近「飛影の出番が少ない!!もっと出せ!!」という(ホントはもっと丁寧ですよ) メールをすごいたくさん頂いたので、飛影が出るお話を書いてみました。 ――が、飛影って書けば書くほど、飛影じゃなくなってくるんですよね;;; さて、今回のお話、時間の流れが無茶苦茶です。 ちょっとここでおさらいしてみましょう。
         ACT1・3・5        ACT7          プロローグエピローグ ――――・――――・――――――――――――・―・―――――――――――――・→     ACT2・4                 ACT6
分かりにくくてすみません。 出来上がってから、読んでみて、初めて 「あ、そーいや、時間の流れ、ちっとも気にしてなかったわ」 と思ったもので。 原作をよく読まれてる方なら、どうってことないと思いますが、 あまり読んだことのない方だったら、訳分からないでしょうね……。えへへ。 今回、プロローグが一番書いてて楽しかったです! 父の日なんて、えらい季節はずれな(笑)(現在10月です) 飛影の話になると、どうしてもシリアス系になるので、 初めの方は「軽く」したかったのです。 ――となれば、桑原くんの登場かなぁなんて。(シリアスもギャグもできる万能キャラですね) あと、「プラスの感情」=「名も知らない感情」=「○情」という方式分かりますよね。 本当は、はっきりと「○情」と書きたかったのですが、なんだか恥ずかしくって(笑) だから、「プラスの感情」という少々意味不明な表現をさせていただきました。 つまり、今回のお話のテーマは「○は勝つ」です(笑) (この話作ってたとき、ちょうどこの曲テレビで流れてたし…) このお話の感想メールお待ちしております。
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